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極マゾ後悔日誌4〜さらば孤高のトランパー〜

Posted by yukon780 on 19.2014 烏帽子岳〜野口五郎岳/長野 2 comments 0 trackback
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男はまだ生きていた。

彼は最後の力を振り絞り、この無駄に長過ぎた航海に今終止符を打とうとしている。



彼はここまで何度も死線を越えて来た。

そのどれもが「自業自得」な地獄であり、一般の人から見るとただただ無駄すぎる行動に映ったかもしれない。

しかし彼はダーマの神に選ばれし「パックトランパー」。

崇高なる無駄足に美を追求する孤高の航海者。

常人には理解し得ない「急がばマゾれ」という高尚なる思想。

彼はマゾの極みの領域にこそ「真の快楽」が存在すると信じて疑わないロマンハンターなのである。


そんな彼の冒険もいよいよ仕上げの段階に突入した。

もはや体力は1ミリも残っていないが、ここからがやっと彼の冒険の始まり。

ここまで「登山」「トレラン」「マゾヒスティング」とこなして来たが、パックトランパーとして残りの「パックラフティング」「ワイルド温泉」「テンカライワナ釣り」という3つの種目をこなさなければならない。

さらには伝説の大秘宝「白肌パイオツ」の獲得へ。


それでは再び生前の彼が書き残した「後悔日誌」に戻ろう。

その後の彼の冒険の模様と、彼が死に至った謎をじっくりとひもといて行こう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


8月24日  11:30


私はついに秘境の入口に足を踏み入れた。

そこは目指す湯俣川と水俣川が合流する地点だ。

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この門のような崖を抜けて行くと、そこに伝説の秘宝「白肌パイオツ」が眠っているという。

今のボロボロの私には、何より「温もりと安らぎ」が必要だ。

ここまでの激しい戦いがあってこそ、白肌パイオツは私を優しく包み込んでくれるに違いない。


まずは水俣川に架かる吊り橋を渡り、

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このように崖を下って行く。

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竹村選手のローキックを散々浴び続けた今の私には、この程度の下降すら手厳しい。

というか遊ぶ時間惜しさに、まだ昼飯すら食っていないから体がフラフラだ。

エネルギーの過剰消費で猛烈に体がメシを求めているが、そんなものを食ってる時間はない。

実はここまでの余計な大回り道のせいで、もう時間がアップアップなのだ。


こうして私は全身から「本末転倒」というオーラを吐き出しながら、秘境の中へ分け入って行く。

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そして実は、ここら辺が当初予定していたパックラフティングのステージ。

しかしやっぱり増水による水流の速さがハンパ無く、ゴウゴウと音を立てて私に恐怖を植え付けて来る。

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写真では分かりにくいだろうが、一度沈しようものなら、そのままずーっと先の下流まで流され続けそうな勢い。

恐らく立つ事もままならないから、岩に体を打ち付けながら転がり続ける事になるだろう。


これはいよいよ下れないのではないか?

もし下れなかったら、一体私は何のためにこのクソ重い荷物をこんなとこまで背負って来てしまったのか?

まるでやる気満々で参加したコンパで必死でその場を盛り上げ続け、宴もたけなわの時に女性陣全員に彼氏がいたと知らされたかのようなこのガッカリ感。

ここまで積み上げて来た苦労は何だったのか?


とりあえず今はこれを見なかった事にして先に進もう。

彼氏持ち女に用は無い。

神のパイオツが私を待っているのだ。


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11:45


我が前方に怪しげな煙が出現した。

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地上からモクモクと白煙を上げ、私が来るのを今か今かと待っている。


この湯俣川には「熱湯小魔亜舍瑠」という名の伝説の場所がある。

そこに足を踏み入れた探検家達が、なぜかこの場所で何度も全裸状態でのたうち回っている姿が目撃されたという。

恐らくそこに生息する山賊にでも身ぐるみ剥がされたんだろう。


そしてまさにここがその場所。

足下からは熱々のお湯がグツグツと溢れかえっている。

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こんな熱湯に足を突っ込んだら大変だ。

私は「押すなよ...押すなよ...絶対押すなよ...」と言いながら熱湯を避けて行く。

きっとここで足を火傷した瞬間に山賊達は襲いかかって来るんだろう。


その手には乗らない。

お前達の相手は後でじっくりしてやるから、まず今は白肌パイオツを目指す。

どんどん先に進もう。

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だいぶ湯俣川の深部まで入り込んで来たぞ。

目指す秘宝はすぐそこだ。



そして高瀬ダムを出発する事31時間目。

我が眼前に、何やら白く輝く物体が目に入って来た。

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私ははやる気持ちを抑えながら、慎重にそいつに向かって進んでいく。

そしてその形をハッキリと確認。

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ついに来た。

余計な苦難を耐え抜いた者にのみその姿を現すという、ひとつなぎの大秘宝。

これが「白肌パイオツ」である!

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地中から惜しげも無く天に向かってそそり立つ白肌パイオツ。

私のような疲れきったオッパイ星人には、もはやそれは後光すら感じてしまう程の崇高さ。

形といい、艶といい、実に申し分ない出来映えだ。

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寝そべっているにもかかわらず、これほどの形の良さはどうだ。

もはや「シリコン入ってんじゃないのか?」と疑ってしまう程の型くずれの無さ。

若干先っちょがとんがり過ぎているのが気になるが、そんな攻撃的な姿勢もまた良い。

そしてその巨乳度は軽くZカップを超越し、もはや神の領域。

これぞ私が30時間以上かけて追い求めた「男のロマン」なのである。


さあ、あとはこの白肌パイオツの所に行って、その優しさに包まれるのみ。

小人気分で抱きついてやる。

もはや秘宝というより、ただの秘宝館に来ただけな気がして来たが気にしない。


しかし、私と白肌パイオツの間には無情な天の川。

流れが速すぎて渡渉が厳しく、パイオツの所まで辿り着けないのだ。

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目の前にあられもない秘宝がカモンしているのに、私はそれを指を加えて眺めるのみ。

なんて壮大なじらしプレイなのか?

マゾのツボを心得ていらっしゃる。


こいつは何よりのご褒美である。


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12:10


私は念願だった「大秘宝館・白肌パイオツお預け祭り」の会場を後にした。

この悶々とした気持ちをどうしたらいいのか?


そんな時、再び目の前に現れた「熱湯小魔亜舍瑠」。

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私は山賊達に身ぐるみ剥がされないように慎重に進んでいく。

しかし私が「押すなよ...押すなよ...」と言いながら進んでいると、それを「お約束」と捉えた山賊達が急襲。


たちまち私はこのようなあられもない姿に。

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見事に身ぐるみ剥がされて激おこプンプン丸だ。

もちろん、思いっきり腹引っ込めてます。


しかしこれは白肌パイオツからのオツなプレゼント。

今、他の登山者がここに来てしまったら大変な騒ぎになりそうだが、もう今の私に羞恥心なぞは存在しない。

私は絶妙な角度の己撮りを繰り出しつつ、その「熱湯小魔亜舍瑠」の中へと突入。

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熱湯と川の水の中間にあるちょうど良い湯加減の場所へ滑り込む。

途端、ここまでの疲れきった体に染み込んで来るような心地よさ。

ロケーションも凄まじすぎで、最高の野天風呂なのである。

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ここまで雨でずぶ濡れになって異臭を奏でていた我が体臭フィルハーモニー楽団が、悦びの讃歌を演奏し始める。

私は長らく色んな場所を旅し数々の秘湯に入って来たが、間違いなくここが一番最高の秘湯だ。


体が温まってこれば、すかさず丸出し状態のまま川へ移動して体を冷やす。

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本来このカメラの「インターバルタイマー機能」は、花が開いて行く瞬間や夜空の星が流れて行く様子などを撮影するための機能。

けしてこのように己の露出プレイを数十枚に分けて克明に記録するための物ではない。

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しかしそこに映し出されているのは、ただただ快楽に身を任せるテルマエマゾエの勇姿。

恐らくかつて何度も目撃された「全裸でのたうちまわる探検家達」というのは、このような状態を目撃されたのだろう。


そしてインターバルタイマーによる無駄なサービスショットは続く。

腹回りの贅肉と、ケツと背中の割れ目が奇跡のコラボを果たしたときのみ腰に現れるという現象「ブラッディクロス」もお目見えだ。

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ここだけ見るとお手本のような変態だが、これでも立派なパックトランパーの行事の一部。

大自然でマッパになると言う事はこれ以上無い贅沢なのだ。


しかしそんな快楽にばかり浸っていると時に痛い目に遭遇する。

もの凄い熱々のお湯が湧き出てる所を足で踏んでしまい、倒れ込むワイルドマッパー。

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もちろん倒れ込んだ先は固い岩なので、見事に軽くケツを負傷した事は言うまでもない。

まあ切れ痔に直撃してたら湯俣川が血の川になっていただけに、まさに九死に一生スペシャルである。


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12:40


完全に温泉で遊び過ぎてしまった。

よくよく考えたら、ここからスタートの高瀬ダムまでは3時間くらいかかる。

迎えのタクシーは18時くらいまでが最終だから、残り2時間くらいでパックラフティングとテンカラフィッシングをやらなければいけないじゃない。


私は「本来の目的」だった川下りを巻きでやらないといけないという状況に追い込まれた。

しかも折からの増水リバー。

はっきり言って清流のんびり派の私にはこの川はレベルが高すぎる。


しかし「せっかくここまで担いで来たんだから」という理由で準備を開始。

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もはややりたいからやるのではなく、「苦労を無駄にしないために嫌だけどやる」というわけのわからない事になって来てしまった。

そしてせっかく温泉でサッパリしたのに、また汗だくになってパックラフトに空気注入。

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そして準備完了。

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もう完全に写真が見切れちゃってるけど、もう撮り直す元気も時間も無い。


こうして私は、「とにかくパックトランパーとして川を下りました」という証拠写真を撮るためだけの不思議な川下りを始めるために再び上流へ。

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そして急流の中にエイヤッと乗り出す。

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スポーンッという勢いであっという間に流され、頑張って漕いでもほとんど操船ができない。

恐くなって一旦上陸し、再びエイヤッと戦場へ。

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気分は障害物だらけのウォータースライダー。

水の勢いが強すぎて、パックラフトでは流れに勝てずに川の流れに身を任すのみ。

しかしこの強烈なロケーションの中を下っているという充足感はハンパ無いものがある。

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でも恐い。

すぐに上陸。

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結果、私は30時間以上かけてはるばるやって来た湯俣川を「100m」しか下れなかったというまさか。

散々時間かけて苦労して湯俣川を口説き落としたと言うのに、この驚きの早漏感。

これぞ伝説の大悲報「骨折り損のマゾ儲け」である。



しかしこれはある程度想定内。

正直湯俣川は下れればラッキー程度に考えていた。

本当のパックラフティングの舞台は、湯俣川と水俣川が合流した高瀬川源流部。

そこを漕いでそのまま高瀬ダムに漕ぎ抜け、ダムを横断してほとんど人が入らない沢に侵入。

三ツ沢と呼ばれるその場所は、すれてないイワナが大量にいて入れ食いだと噂されるイワナ天国。


何としても辿り着いてみせる。


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13:30


いよいよ餓死寸前。

いい加減メシを食わないと行き倒れになってしまう。


湯俣川を後にした私は、今度は水俣川に侵入。

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そこでやっと遅めのランチタイム。

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しかしこんな少量の食いもんで我が腹のロマンは満たされない。

そこで登場するのがわざわざ持って来たコイツ達。

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今この場でサクッとイワナを釣って、この塩と串で極上ランチを完成させるのだ。


さっきの湯俣川は温泉が出る川だけあって、イワナは相当な上流部にしか生息しない。

しかしこの水俣川はしっかりイワナが棲み着いている川。

早速パックトランパー6番目の奥義「テンカラフィッシング」のスタートである。

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私は釣りが苦手であまりやって来なかったから、実はこの時が初めてのテンカラデビュー。

テンカラとは日本独自の釣りで、毛鉤と竿だけで釣るシンプルな釣法。

その気軽さと軽量さはパックトランピングにはもってこいで、最近ではパタゴニアが「シンプルフライフィッシング」として世界発信を始めているほどだ。


しかし釣りの中でも最も難しいとされる渓流釣り。

相当に気配を殺して忍び寄って行かないと、すぐに魚に見つかって警戒されてしまう。

そんな繊細な釣り作業なのに、ドタバタと己撮りしながら釣り上がる男が魚に発見されないわけが無い。

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いつも早朝にドタバタと家を抜け出そうとして子供を起こしてしまい、嫁に発見されて朝から怒られる男そのものの姿だ。

むしろこの作業のせいでどんどん腹が減って来た。


水俣川はあまり遡上できなかったから、別の沢に移動。

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もはや所狭しと北アの山奥を闊歩している。

もちろんこんなの登山じゃなければ沢登りでもなく、単純な釣りでもない。

これがパックトランパーの職場風景なのである。


そして出来るだけカメラと離れて、息を殺して釣り上がる。

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で、自分でも100%予想していた通り、木の枝に毛鉤を引っ掛けてドタバタと動いて魚に発見されるというパターン。

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絵的には釣れているかのように映ってたので、満足してこの場も諦める。


その後も良さげな沢を見つけては竿を振ってみる。

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当たり前だが、まるで釣れる気がしない。

これは今後のパックトランピング人生に深い影を落としそうだ。


しかしである。

こんな渓流釣りを舐めまくっているおちゃらけフィッシャーにも望みはある。

それが先ほど書いた三ツ沢のイワナ王国。

行きのタクシーで運転手が「あそこは普通の人は行けないからね。でもボートで行けたらきっとイワナさんが入れ食いだよ。」と言っていたのだ。


私はその言葉に最後の望みを託し、高瀬川源流部の南下を始めた。


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15:20


まずい。

まずいぞ。


余計な沢釣りのせいで、いつの間にかすっかり時間が無くなってるじゃないの。

このまま普通に歩いて行っても、タクシー乗り場に着くのは18:00くらい。





何も出来ないじゃないか!


というか、パックラフティング&イワナ王国で焚き火ランチどころか、このままではタクシーの最終にも間に合わないじゃない。

上高地で例えるなら、15:20の段階でまだ横尾にいるようなものだ。

それなのに徳沢辺りの沢でパックラフトとテンカラをやろうってんだから無理がありすぎる。


だから私はいつだって「Mr.詰めの甘い男」とか「ズサンプランナー」とか呼ばれてしまうのか。

余計な前座行動が長過ぎたせいで、一番のメインイベントがやれないというまさか。

こいつは思わぬ自体に追い込まれてしまった。


とにかく時間内にこの高瀬ルートから急いで脱出しないといけない。

私は高瀬川源流部を一気に南下した。

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パックラフトで下るには最高のロケーションだ。

だが、残念ながら今の私には時間が無いのだよ。

ほんと、一体何のために私はこのパックラフトを担ぎ続けて来たのだろうか?


しかしやっぱり今回は水流が速すぎて、どっちみち快適に下る事は出来なかったようだ。

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そしていく筋かの沢が合流するにつれさらに水流は激しくなり、岩もゴロゴロでとても下れそうにない。

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こりゃのんびり清流派の私にはさすがに無理だ。

それでも今後のためにも、下れそうな区間だけでも確定させておきたい。


時間の無い私は、「ウルトラヘビートレイルランナー」という水と油が複合したドレッシングスタイルで先を急ぐ。

やがてこのルート上の唯一の避難小屋である、名前があるのか無いのか分からない「名無避難小屋」という所に到達。

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ちょうどここにある「名無沢」が高瀬川に合流するあたりが、ちょうど勾配が緩やかになっていて快適に下り始められそうな雰囲気だった。

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遠目でしっかり確認できないが、恐らくスタートするならここだろう。

そもそも裏銀座縦走なぞせず、普通に高瀬ダムからピストンしていれば行きにこの場所が確認できていたはずだ。

今更ながら後悔が止まらない。


それどころかこのルートから脱出出来るかどうかも怪しくなって来たぞ。

万が一最終のタクシーに乗り損ねたら、真っ暗闇の長大なトンネルの中を1時間以上歩かないと七倉まで帰れない。

いよいよ夢とかロマンとか言ってる場合じゃなくなって来た。

ここからは認めたくない現実との戦いだ。


私はほぼ競歩のような状態で移動を続ける。

おかげで背後のパックラフトは斜めって重心が安定せず、体感重量は「倍率ドン、さらに倍」と言ったオマゾダービーに突入。

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正直、この延々と続く高瀬ダムまで区間が一番体力的にハードな気がする。

自ら望んで選んだこの職業だが、まだここで死ぬわけにはいかない。

必ず私は生きて家に帰ってみせる。


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16:20


私はもはや無我の境地に達していた。

いつまでもいつまでも長く単調な道、背中の重み、迫り来るタイムリミット。

そして神はこの段階で「雨を降らす」という、追い打ちにも程がある仕打ちでとどめを刺しに来た。


そんな中、やっと高瀬川源流が高瀬ダムに到達。

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パックラフトで漕ぎ抜けていたらどんなにか素敵だったろうか...。

この美しきエメラルドグリーンよ。

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花京院典明のエメラルドスプラッシュを彷彿とさせるこの美しさ。

このエメラルドグリーンは、何やら情報によると「上流から流れてきた硫黄と、高瀬渓谷の花崗岩中の長石が化学反応してできた生成物が原因です」とある。

しかしこの頃には私自身も色んな化学反応を起こしており、体中からポニーのフンみたいな匂いがエメラルドにスプラッシュしている状態。

いよいよ細胞から死滅し始めている危険な状態だ。


それでも前を向いてこの航海を続けて行かねばならない。

生きて家に帰ってこそ冒険なのだ。


ここからは、本来パックラフトで南下するはずだったダム湖を横目に見ながらの移動。

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素敵だ。

本来ならこの風景の中を優雅に下ってたと思うと、泣いてしまいそうだ。

そしてそんな傷心後悔中の私の前に、本来行くはずだった「イワナ王国」への入口が見えてきた。

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この奥にある沢に行けば、純情なイワナ美女達がハーレム状態だったと言うのに...。

そしてそこには、焚き火で焼いたイワナに男らしく食らいつく私がいたはずだったのに...。

そしてそれを見たこのブログの読者が「ダンディーだなあ。俺もパックトランピングしてみたいぜ。」と、憧れの目で私を見てくれる予定だったのに...。

つくづく私はこの2日間何をやっていたのか...。


ちなみにイワナ王国のこの対岸は、東沢出合という場所。

ここには湖に漕ぎ出すのにちょうど良い場所がある。

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なので、名無避難小屋あたりからスタートしてダム湖に合流し、イワナ王国でダンディズムを楽しんだ後、この東沢出合でゴールするとちょうど良かったと思う。

もし誰か私のこの航海の無念を晴らしてくれるパックトランパーがいるのなら(いるか?)、どうかこの後悔日誌を参考に冒険してみて欲しい。

ちなみにこのダムは揚水式なので、毎日10Mも水位が変化する湖なので注意されたし。

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しかしパックトランパーとして注意しなくてならないのは、ダムの動きよりも「無駄な動き」だ。

ここまでの私の数々の無駄な作業を教訓に普通に楽しんで欲しい所だ。

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さあ、もうこれ以上後悔にまみれるのはやめよう。

あとは平坦な道を30分程歩けばこの長かった冒険の航海も終わる。

もう気力体力は限界をとうに越えてしまっている。

しかしさすがにもうマゾな事は起こらないだろう。


最後の力を振り絞って進むのだ。


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17:00


私は立ち尽くしていた。

果てしない恐怖が体中を駆け巡っている。


周囲が薄暗くなって来た頃。

目の前に現れたのは果てしなく長そうなトンネル。

めちゃくちゃ恐いじゃないか。

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閉所恐怖症&ビビリストのこの私が、ここに一人で突っ込んで行かねばならないのか?

ジャイアンツの帽子とハッピを着て、阪神ファンで埋まる甲子園のライトスタンドに突っ込めと言っているようなものじゃないか。

しかしここを通らないと帰れない。

私は背筋に悪寒を感じつつ、さぶイボマックス状態でエイヤッと突入した。



歩く。

ひたすら歩く。

出来るだけ余計な事を考えては駄目だ。

なんて事を考えれば考える程、我がネガティブシンキングが冴え渡る。


なんか背後に気配を感じる。

そう感じたら最後、もう絶対背後に何かが大量にいる気がしてならない。

私の脳内ビジョンの中では、後ろの世界はこんな感じになっていた。

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もはや恐ろしすぎて振り返る事なんて出来ない。

そんな時、ふと横を見る。

すると何か手のような影が今にも私に襲いかかって来ているではないか。


たちまちパニックになって走り出す私。

しかしその手の影はどこまでも着いて来る。

もはや生きた心地がしない。

私は23キロザックを背に、全力でダッシュする。

もう腰や肩が「ぎゃあああっ」という断末魔の悲鳴を上げているが、今はそれどころではない。

こんなに頑張って走ってもまだ影が追って来るのだ。


しかし途中で気づく。

その手の影みたいなやつは、自分自身が背負っていたパドルの影だった事に。


これぞ奥義シャドウトランピング。

パックトランピングを極めた臆病者だけに許された、自作自演のパニックプレイなのだ。


しかし影の犯人が分かった所で背後の気配は消える事は無い。

私はその後もその妙に長いトンネルを走り続けた。

そしてついにトンネル突破。

するとそこには、思わず「絶対ここにあったら駄目でしょう」と突っ込んでしまった石碑が登場。

その石碑には「慰霊碑」と書かれている。

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瞬間、水道管が破裂したみたいにかつてない大失禁。

アテント二枚重ねでもその放水は受け止めきれないだろう。

もうこれを見た瞬間から、私のネガティブシンキングは手塚治虫クラスの発想力で数々の余計な恐怖ストーリーを脳内に大放映。

もう一度走り出したこの思考は恐怖しか生み出さない。

そんな私の前に、さっきよりも遥かに長そうなトンネル登場。

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絶望だ。

地獄だ。

その迫力は、怒った時の嫁の「漆黒の無言」と同様の恐怖感。

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やめて...。

私が悪かった。

男のロマンだとか、パックトランピングだとかもうどうでもいい。

頼むから普通にお家に帰らせて....。


もう本気で涙が出て来た。

体も満身創痍だし、精神もギリギリまで追いつめられた状態。

たかだか1泊2日の旅で、人はここまで己を追い込めるものなのか?


しかしいつまでも悩んでいてもここから脱出は出来ない。

いよいよ辺りも暗くなって来て、恐怖のウイルスが脳内パンデミックを起こしている。


しかしこれがこの長かった航海の最後の戦いだ。

いざ突き進め!

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無理だ!

恐ええ!


もう死の予感しかしない。

持ち前の豊かな想像力が、圧倒的なクオリティで自分自身を恐怖でがんじがらめにして行く。


とにかく何かすがれるものはないか。

私はiPhoneを取り出し、今自分が持っている音楽リストの中から一番明るいと思われるアーティストをチョイス。

たちまち薄暗いトンネル内に「ファッションも〜んすた〜」というポップな音が響く。


今日ほど私はきゃりーぱみゅぱみゅに感謝した事は無い。

極限状態で聞くロリーポップな音楽は、かすかな光となって恐怖に打ち震える中年に希望を与える。

しかしいつ背後からリアルなファッションモンスターが襲って来ないとも限らない。


私は必死で走った。

薄暗くてジメジメしたトンネルの中を、恐怖と過労と陽気な音楽とともに。

とにかく気を紛らわすために、「はーたーちー、はたちふりそでーしょーん」と叫びながら走る38歳二児の父。

場所が場所なら即座に警察のご厄介になってしまいそうな危険な状況。


しかしとにかくトンネルが長い。

もう走る事もままならないけど、立ち止まる勇気もないからトレッキングポールを頼りに必死でトンネルの先の光を目指す。


極まった。

ここにおマゾは極まったのだ。

ここまでのやりすぎたハードマゾの数々。

気力と体力の限界を越えた先に現れた光。

あれこそダーマの神に選ばれた私が求めていた真の秘宝。


私はその光に向かって舵を切る。

やがてその光は徐々に大きくなって行き、神々しく私を包み込んだ。

そして辺りが一瞬真っ白になったかと思うと、少しづつ景色が目に飛び込んで来た。

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ついに抜けたのだ。

私は長いトンネルの試練を乗り越え、ついにゴールであるスタート地点に戻って来たのだ。


そしてヨロヨロと公衆電話を目指す。

とにかく助けを求めなければいけない。

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私は最後の力を振り絞り、ジーコジーコとダイヤルを回す。

まるで高校時代に、家の黒電話から好きだった人に緊張しながら告白電話した時のようにダイヤルを回す指がプルプルと震えている。

もちろん緊張ではなく、極度の疲労のためだ。

あれから20年の時が経ったが、まさかあの頃の純情な私が20年後にこんな変態ソロ活動をするようになっているなんて想像もつかない。


私はタクシーに助けを求めて受話器を置いた。

そして途中で何度も意識を失いながらも、ズルズルと這うようにゴールのタクシー乗り場に向かう。

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あと少し...。

あと少しでお家に帰れる...。


もう疲れ過ぎて何も考えられない...。

とりあえず今は助けが来るのを待つだけだ。


着いた...。

やっとタクシー乗り場に着いたぞ...。

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なんだか眠くなって来た...


いかん

寝ちゃ駄目だ

生きて家に帰るって決めたじゃないか


あれ、こんなところにお花がいっぱい咲いている

お花畑の中ではかわいい妖精達が遊んでいる

え?

一緒に遊ぼうって?

もちろん遊ぼう


ねえ


待ってよ


置いてかないでよ...


ねえ......


さあ、登山だ トレランだ...


あははははは.....


パックラフティングだ テンカラだ...


うふふふふふ......


イワナがいっぱいだあ...

パイオツもいっぱいだあ...


楽しいなあ...


パックトランピングって


楽しいなあ.......


嫁が笑ってる


嫁が笑ってるよぅ.....





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼の後悔日誌はここで終わっていた。

この日誌は、この場に駆けつけた第一遺体発見者のタクシー運転手が見つけたものだ。

その後日誌は家族の元に送られ、彼の遺体は七倉で荼毘にふされた。



結局この男は何がしたかったのか?

多くの研究家達がその謎に挑んだが、未だにその動機は不明のまま。

こうして彼は、自分自身が秘宝となって世の人達にロマンを残して行ったのである。



パックトランパー。


それは神に許されたスーパーマゾスターのみに許された極みの世界の航海者。

果たして彼のこの一連の行動を見て「私もパックトランピングがしてみたい」と思った人間が何人いるだろう?

恐らく一人もいないのではないだろうか。


しかしパイオニアとはいつだってそういうもの。

かつて同じように「なぜそんなことをするんだ?」と聞かれた男がいた。

その男の名は「ジョージ・マロリー」。

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彼はその問いに対し、「そこに山があるから」と言い放った。


そして現代。

同じように「なぜそんなことをしたんだ?」と不思議がられる男がいる。

その男の名は「常時・マゾリー」。

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もちろん彼は躊躇無く「そこにマゾがあるからさ」と言い放った。


そして「なぜこんな無理な行程でしか遊ばないんだ?」と問う記者に対してこう言った。

「家に嫁がいるからさ」と。



彼の功績が認められるのは100年後、200年後のことかもしれない。


しかし我々は忘れない。


彼が命をかけてやりきった「パックトランピング」。


その全てが無駄な事だったということを....。




極マゾ後悔日誌  〜完〜 



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極マゾ後悔日誌3〜醜いアヒル中年の死線風景〜

Posted by yukon780 on 10.2014 烏帽子岳〜野口五郎岳/長野 3 comments 0 trackback
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秘境の入口に立って身震いする男。

彼がここに辿り着くまでは、実に長い長い苦難の航海だった。


もはや体力は完全に枯渇し、全身の痛みはエキセントリックな状態。

子泣き爺レベルの無駄な重荷を背負い続けた事による肩と腰の破滅的シャウト。

そして信じていた登山靴の裏切りによる靴擦れパーリー。

さらにはこの時点で彼は、何故かお馴染みの「ずぶ濡れドブネズミ」へと変貌。

濡れたおっさんの放つ異臭は、もはや「歩くくさや」状態である。



一体この秘境の入口に辿り着くまでの彼に何が起きたのか?

その謎は、彼が生前に書き残した「後悔日誌」に記録されている事だろう。


一旦ここで、ここまでの後悔日誌を軽く振り返ってみよう。

彼の冒険は「国連軍豪雨モーニング」から華々しく始まり、いきなり「ブナ立尾根急登地獄絵図」「爽やか灼熱ミストサウナ」「プログロッカー&エクトプラズマー」という乱戦に巻き込まれるが、これを撃破。

そして「烏帽子岳イチゴかき氷」の恐怖に怯えつつも無駄なトレランピストンを完遂し、「灼熱棒ラーメン」で英気を養ったかと思うと、ついに「フランダース昇天未遂」で危うく天に召されそうになる。

しかし彼の持ち前のマゾ魂で「ノーと言えないラストサムライ」を演じきり、ついには「ゴロゴロ五郎」の恐怖と戦いながら「ウルトラヘビースピードハイカー」へと変身。

そして無事に野口五郎小屋に到達した彼は、ついに古代中国の秘宝「旭超乾」を手に入れた。


ここまでの記録を見る限り、まだ生きているのが不思議なほどの激戦の数々。

しかしこの時点では、彼は「秘境の入口」からはまだまだ遠い所にいる。


それでは彼が「旭超乾」を手に入れてから「秘境の入口」に辿り着くまでのその後の航海の記録。

じっくりと読み進んで行こう。


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8月23日 16:20


私は渾身の「旭超乾」を体内に注入し、やっと生気を取り戻した。

そしてヨロヨロと小屋の受付へと向かった。


実はこの野口五郎小屋にはテント場がない。

故に野宿派の私としては小屋に泊まるのは本意ではなかったが、今回は小屋泊に。

しかし今思えば、ここにテント場がなくて本当に良かった。

もしここのテント場があったら、私はこの24キロザックにさらに「テン泊装備」も追加で担いで来ていた事は間違い。

そんな事した日には、私は100%ブナ立尾根のもずくと化していた事だろう。


案内された部屋に着くと、早速同室の人に「あんた、それ何担いで来たの?」と不審者の侵入を見るかのような目で質問された。

私は「これはパックラフトと言って、まあ一言で言えばボートです。」と言えば、もちろんその人は「なぜだ?」と言った目で私を見る。

まあここは2900mの高地だし、川を下るどころか水すら貴重で1Lの天水を200円で買うような場所。

彼が「同室に変態が紛れ込んで来た」とざわついてしまったのも無理のない話だろう。


早速彼は「なんか面白い変な奴が来たぞ」とまるで大道芸人の来訪を告げるかのように、もう一人の同室の人を呼びに行った。

そして連れて来られた登山ガイドの人と、もう一人の同室人と交えて軽く談笑。

完全に私は「ビックリ人間枠」で皆さんに受け入れてもらったようだ。


やがて腹も減ったんでメシにする。

最近こーたろくんの水遊び装備一式を買ってお金のないお父さんは、もちろん「素泊まり」だ。

ほんとは小屋のメシが食いたいんだが、お父さんはこうして陰ながら己の欲望を犠牲にして君たちのために節約資金で戦っているんだよ。


故に他の登山者達の美味しそうな夕食を横目にしつつ、隙間風が入り込む自炊場へ。

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時折宿泊者の楽しそうな笑い声が漏れ聞こえて来る中での、素朴なアルファ米タイム。

ここは自炊場という名の「反省後悔場」なのだろうか?

テント泊の時は気にならないが、この様な場所でのアルファ米は何だか妙に涙の味がするのは気のせいだろうか?


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18:00


これは奇跡なのか?

それとも秘宝「旭超乾」がもたらした効果なのか?


「Mr.山に登っても報われない男」と称される私が、なんと「夕陽」という幻の気象現象を目撃できる時が来たのである。

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あれほどまでに「ゴロゴロ五郎」だったモクモクエレキテル連合軍は姿を消し、なんと空に青空が。

そして、かつて私をボロ雑巾のように翻弄した大天井岳(参考記事:常念山脈北上野郎2〜大天井岳編・おもてなしの嵐〜)が、今まさに夕陽に照らされ始める。

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かつて長大な縦走の末に辿り着いたあの山の山頂で、私は真っ白な絶景を前に号泣したものだ。

しかしあの頃の私と、「旭超乾」を体内に宿した今の私とは違う。

ついにずっと「あんなのはCGだ」と言って信じて来なかった、「夕陽」という名の黄金色に輝くお宝が登場したのである。

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素晴らしい。

冷静に立って夕陽を眺めているように見えるが、もちろん下半身は悦びの失禁でビショビショである。

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アテント無しでは直視不可能な落陽タイム。

私を苦しめたゴロゴロ五郎の雲達も、今では進撃の巨人のように夕陽に向かって去って行く。

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これは来たのではないのか?

ここまでは悲惨過ぎた行軍だったが、まさにこれを機に一気に好天に転じて、最高のパックトランピングを楽しめる時が来たのではないのか?

明日は大快晴の中、ノンマゾでラブリーな一日が始まるのではないのか?


私の胸は翌日に対する夢と希望で一杯になった。

もしかしたら我が悪天候人生の中ではツチノコよりも見る事が難しいと言われる、あの伝説の「ご来光」なる現象が拝めるかもしれない。

私はホクホク気分で眠りについた。

さあ、明日からはサングラスが手放せない航海が始まりそうだ。


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8月24日 3:30


生まれ変わった日の朝というものは何かが違うものだ。

やはり興奮しているのか、私は目覚ましよりも早く起きてしまった。


今日は私がついに「一日中晴れにまみれる」という記念すべき日。

せっかくのご来光なんだから、小屋の横で見るよりはやはり野口五郎岳の山頂で美しく堪能したいもの。

少々早い時間だったが、私はいそいそと準備を開始。

そして自炊場にて朝飯を食うべく、小屋から出ようと玄関へ。


おっと、焦ってすぐに扉を開けては駄目だ。

まずは深く深呼吸。

もう昨日までの私はいないのだ。

いきなり満天の星空を見てパニックにならないように、一度心を落ち着かせよう。


さあ、準備は整った。

この扉の先に広がる世界こそ、我が明るい未来を暗示する新世界。

いざ快晴の北アルプスへ。


おもかじイッパーイ!

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お白がイッパーイ!


そう叫ぶと、私はその場に崩れ落ちた。

そしてプルプルと肩を震わす。


他の登山者を起こしてはいけない、歯を食いしばれ。

そう思えば思う程、どうしても「ウッ...グッ...グッ...」と漏れてしまう嗚咽。

いっそ号泣できたらどんなにか楽だろう。


誰か...

誰か私を強く抱きしめてくれ...


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4:50


さっき食べた岳食カレーうどんのしょっぱい味の事は生涯忘れない。

だが私は、そのカレーうどんを食いながらこう前向きに考えた。

これはひょっとして一旦落胆させておいてからの、野口五郎岳の山頂に立った途端に雲が晴れてご来光登場っていうサプラズ演出ではないだろうか?

この絶望的な光景に対し「やはり私は醜いアヒルの子だったのだ」と嘆かせた所で、山頂で一気に「お前は実は白鳥の子だったのだよ」と示してくれるのではないのか?と。


私はそんな神の小粋な演出を信じ、野口五郎小屋を後にした。

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遠方に見えるはずの大天井岳の姿は、もはや遠い過去の記憶になりつつある。

しかしもう後ろは見ない。

前だけを見つめて進んでいくのだ。

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しかしこれが前なのか後ろなのかも分からない。

しかもここに来て、ジャパネットたかたのように「なんと今なら寒風もセットでご提供!金利手数料はいりません!欲しいのはあなたの命の一括払いです!」とばかりに寒風で殺しにかかって来た。


猛烈に寒い。

そして烈風はどんどん強くなる。

おまけに今日に限って見事にグローブを忘れて来ているという仕込みの妙。

瞬く間にお手手の感覚が薄れて行く。

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そしてどこまでも続く白いゴーロ地帯。

もうそこには夢や希望が介入する余地は見当たらない。

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やはり醜いアヒルの子は、景色すら見にくいのか?

しかし一方で、眼下の白は徐々に消えて行って少し景色が見え始めた。

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ついに神の粋な演出が始まったのか?

いよいよ白のカーテンが一気に開かれ、この壮大な大劇場に「ご来光」がご登場する瞬間。

そして「お前は白鳥の子だったんだよ」と高らかに歌い始めるのだ。


さあ、野口五郎岳の山頂が見えて来たぞ。

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何やらさっきより暗くなってる気がしないでもないが、時間的にはばっちりご来光の予定時刻。

はるばるこのようなクソ重い物を背負って、無駄すぎる大回り道をして来たのはこの瞬間のため。

なんかさらに風も強くなってるけど、きっとこれは勝利への追い風だ。


さあ、野郎ども帆を揚げろ。

ヨーソロー!

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ヨー白ー!




分かってはいたんだ。

こうなる事くらい。

いいじゃないか。

少しくらいポジティブになってみたかっただけだ。

私は白鳥の子なんかじゃない。

所詮は悪天候に取り憑かれた、ただの白豚の中年だったのだ。


さて。

いつもの景色、いつものネガティブさでやっと平静を取り戻したぞ。

冒険の航海に、ご来光なんていうくだらない妄想は必要ない。

あんなものはCGである。

先を急ごうか。


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5:20


野口五郎岳を制した私は、次なるステージ「真砂岳(まさごだけ)」に向けて進路を取った。

相変わらず私の行く手は、お先真っ白である。

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しかし私は迷わず突き進む。

幸いここの稜線は比較的歩き易く、起伏もそんなに激しくない。

この稜線からの五郎池の眺めも実にいい感じだ。

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しかしである。

この道が歩き易くて起伏が少なかったのには意味があった。

私はこの時点で気づく。

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GPSを見ると、なんといつの間にか真砂岳を通り過ぎていた事に。

実は私が歩いていた道は山頂を通らない巻き道だったのだ。


ここで我が心の中でAくんとBくんが激しく論戦を交わし始める。

Aくんは言う。

「真砂岳行くならまた来た道を随分と戻っていく事になるよ。もう別に真砂岳にこだわらなくて先に進もうよ。どうせ行っても真っ白だよ。こんな重い荷物背負ってるんだし、今は少しでも無駄に体力と時間を失っちゃ駄目だよ。」と。

確かにAくんが言う事はもっともだ。

正論過ぎて反論の余地が見当たらない。


しかしBくんはその正論に対して「フッ」と鼻で笑ったかと思うと、

「それではロマンがないじゃないか。そもそも今回の行程で真砂岳だけ踏まないってのはスッキリしないし画竜点睛を欠くってもんだ。荷物が重いだ?無駄に時間を失う?何言ってるんだ。お前はパックトランパーだろう。荷物はここに置いて走ればいいじゃないか。トレイルランニングればいいじゃないか。だめよだめよも好きのうちじゃないか。きっと真砂岳からの眺めは素晴らしいぞ。」と。

私はそのBくんのその反論に対し、ポーンと膝を打った。

答えは簡単だったのだ。

マゾればいいだけの事だったのだ。


こうしてマゾ麻痺に陥っていた私は、その場に荷物をデポして元来た道に向けて走り出した。

もう何が正しくて、何が不正解なのかも分からない。


そしてある程度走った所で気づく。

これ全部戻ってたら確かに時間がもったいない。

そこで横を見上げるとこの真砂岳までの道なき「直登」バリエーションルート。

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いよいよ冒険色が強まって来た。

行けると判断した私は、その直登ルートをガシガシ登って行く。

振り返るとこの状況。

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今ならなぜ五郎池だけ絶景が見れたのかよく分かる。

余計な高度感を演出するためだったのだ。


やがて私は真砂岳直下の稜線に到達。

そしてBくんが言ってた「きっと真砂岳からの眺めは素晴らしいぞ」の言葉を信じて山頂を目指す。

あえて苦難の道に飛び込んだ者にのみ与えられる真の絶景。

着いたぞ。


これが真砂岳だ!

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やっぱり真っ白だけだ!


何ともみすぼらしい山頂と白との見事なコントラスト。

きっと晴れてれば「無理して来て良かった」と思える絶景スポットなんだろうが、私にとっては無駄に時間と体力を失った絶望スポットとなった。

そして来た道は恐いから、大人しく正規ルートで遠回りして走って戻って行く。

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いかに無駄足を楽しめるか。

それが出来るパックトランパーの条件なのである。


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6:00


出会いがあれば別れがあり、そして再び新しい出会いがある。

私はついにこのアホほど長かった裏銀座の縦走路に別れを告げる時が来た。

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ついにここからは秘境を目指すための下山戦線。

健脚下山道と言われる「竹村新道」のスタートである。

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何気にこの竹村新道は、あの北ア三大急登のブナ立尾根よりも標高差がある道。

とにかく長くて急坂な上崩落箇所も多く、「あくまでも健脚者向きの道」とご紹介されているマゾの殿堂。

そこに何故かパックトランピングスタイルで挑む愚かさよ。

しかし猛烈な苦難の先にこそ男のロマンは光り輝くのである。


そしてズガーンと荒々しく伸びて行く竹村新道のロマン道。

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早くも吐き気を抑える事が出来ない。


竹村新道は簡単に言うと、下山道とは思えないほどのアップダウン連続の尾根を散々歩かせた上で、ひたすら長い距離の大急降下の道で下山させるという気の遠くなるようなお笑い下山道場なのである。

キックボクシングで例えるなら、12ラウンドまで延々とボディブローを食らい続けた挙げ句、延長58ラウンド目まで延々と両膝にローキックを打たれ続けるといった修羅の道。

生半可なマゾが立ち入っては行けない領域なのである。


しかし一方で、素敵なお花がかなり咲き乱れている隠れたメルヘンスポットだったりする。

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そしてふと視線を前方に移せば、雲間から光が降り注いでスポットライトのように山を照らしている。

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なんと幻想的な光景。

これはみんなが言う程、この竹村新道は厳しいだけの道じゃないのかもしれないぞ。


なんて思って前を見るとご覧の有様。

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このようにガッツリ下らせておいてまたガッツリ登らせるという、パックトランパーにはたまらない無駄足感が素晴らしい。

そんな道が延々と続き、時折崩壊箇所や痩せ尾根もあってまるで休む暇がない。

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このボディブローの嵐は地味に、そして確実に私に重大なダメージを蓄積させて行く。

とにかく長く長く辛いのである。


そんな中、本日3つめのピークハントとなる「南真砂岳」に到達。

正直3枚とも「同じ場所か?」と思える程に背景は同じである。

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しかし同じではないのが私の疲弊っぷりだ。

もはや山頂標識も見当たらなかったからここが山頂なのかも分からなかったが、もうこの頃にはそんなものはどうでも良くなっていた。

そして私が泣きそうな顔になっているのは、ここにきてついにあのお友達に掴まったからである。

「雨」である。


いよいよ満を持して現れた大御所の安定した攻撃。

私は外部からのずぶ濡れと、内部からのムンムンに弄ばれながらもひたすら突き進む。

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そして散々弄ばれた後、雨が上がる。

私はカッパを脱いでカメラを取り出す。

するとまた雨が降る。

カッパ履いてカメラザックイン。

雨上がる。

脱ぐ、出す。

雨降る。


いいかげんにしてくれないか?

なぜこんな過酷な場所で、郷ひろみみたいにジャケットを脱いだり着たりし続けなければならないのか?

この無駄に重い荷物を何度も下ろしたり担いだりする作業だけでも本気でしんどいと言うのに。


しかしそんな私をあざ笑うかのように、延々と尾根道は終わる気配がない。

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もう下山と言うより普通に縦走登山だ。

で、大概かっぱを脱いだ時に限って、このように両サイドから濡れた葉っぱ達が襲いかかって来る。

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こいつらの「歓迎びしょ濡れハイタッチ」によって、僕のサポーツタイツから靴下から靴までことごとくびしょ濡れになって行く。

雨がやんでいても、結局はずぶ濡れになるのはドブネズミの運命なのか?

しまいには濡れた靴下から水が靴内に侵入して、不快感と靴擦れの悪化を熱烈サポート。

ここまでの疲労度もどう表現していいのか分からない程にぐちゃぐちゃだ。

もはや王道の地獄である。


もう濡れた頬が雨なのか涙なのかも不明な厳しい状況だったが、とにかく進むしかない。

下山道なんだが、本日4つ目のピーク湯俣岳へのスペシャルな登りに突入。

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噂には聞いていたが、この湯俣岳までの登りが中々の大急登連続で吐き気をこらえる事が出来ない。

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何度も立ち止まっては、電源の切れたASIMOみたいにその場に立ち尽くす。

その度に何度もGPSで現在地を確認するが、当たり前だが絶望的に進んでいない。

こんなにキツい戦いは本当に久しぶりだ。


やがて8000m級の登山者と同じような限界的な動きで湯俣岳山頂に到達。

そしてこれだけの苦労、これだけの地獄の果てに現れた山頂。

この苦しみが報われるには並大抵の絶景ではすまされない。


そんな気持ちの私の前に現れた湯俣岳の山頂がこれである。

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もはや白い景色すら見えない展望ゼロの光景。

北アルプスの名のある山とは思えない程の「三角点のみ」という潔さ。

こんなに報われない人生があっていいものだろうか?


もはや三脚を出す気にもなれない。

一応記念写真を撮ったが、若干私はキレている。

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過酷なり、竹村新道。

しかしここが地獄の一丁目と言われる所以は、ここからの長過ぎる急下降タイム。

いよいよここから延長ラウンド突入で、延々と膝にローキック食らい続ける戦いの始まりなのである。


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9:00


私は泣いていた。

竹村選手のローキックが凄まじかったのもあるが、仲間であるはずのクソ重い荷物による膝への負担が尋常じゃないのである。

しかもそんな圧倒的な劣勢の中、ついに雨が「猛烈な土砂降り」へとランクアップ。

もうこの時の惨めさと辛さは言葉では表現できそうにない。

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今誰かに優しい言葉を投げかけられたら、私は人目もはばからずにその人に抱きついて号泣した事だろう。

いよいよ肉体も精神も限界を突破してしまった。

それでもそんな哀れな私に、雨と竹村選手と荷物の攻撃は容赦なく続いていく。

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そもそも、なんだかスタートした頃よりも荷物が重い。

普通2日目ともなれば荷物は軽くなるものだが、私が背負っている大半が登山と関係ない物達なのでほとんど重さが変わらない。

それどころかここまでの雨で水を吸ってるのか、体感的には26キロくらいの重さに感じる程だ。


標高も下がって暑くなって来て、ジメジメした世界が猛烈な不快感となって襲いかかる。

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もう楽しい要素が一つとして見当たらない。

これが何かの大会なら迷わずリタイヤを宣言している局面だが、当然勝手に一人でやってる事なので一切の救いの手は伸びて来ない。


途中、「ちょっといっぷく... 木かげ処」と書いてあるスポットが登場。

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しかし雨でいっぷくする余裕もなければ、木かげどころか全てが暗いかげの世界。

それでもその下の「湯股まで90分」という絶望的な数字を見て、その場で横になる。

もうどうせドブネズミなんだから、地面がビシャビシャだろうと何も気にならない。


そしてそこで最後のエネルギージェルを補給。

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本来コイツは練り砂糖みたいにクソ甘すぎて水無しじゃ飲めないんだが、その時の私は純粋に「うまい」と感じながら補給した。

それが何を意味するのかはこのジェル愛用者は分かるだろうが、体が非常に危険な状態だと言う事。

もう体のエネルギーが枯渇状態で、とにかく甘い物を欲して欲してしょうがないのである。

この時の私は「今ならこのジェルを大ジョッキでも軽く飲み干せるぞ」と言い切れる程に疲弊していたのだ。


まさに地獄。

ちなみにこの時の現在地がここ。

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ちゃんと地名も「地獄」になってるのね。

言い得て妙である。


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10:00


地獄の亡者と化した私の徘徊は続いていた。

もはやここが現世なのか黄泉の世界なのかの区別もつかない。

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この延々と終わらない長い地獄に、普段はそんなことしないけどさすがにiPhoneで音楽を流して気を紛らわせる。

とにかくこの辛い地獄が早く終わって欲しいという一心で。

あれ程嫁に「行かせてください」と懇願してまでやって来たのに「早く終わって欲しい」と言ってる時点でおかしな話だが、パックトランピングスタイルでこの状況だと誰だって帰りたくなるはずだ。

そんな後悔を全身に身にまとい、ローキック下山は続く。

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道もぬかるんだゲリ道が多く、滑って踏ん張る度に毛穴から「ブシャッ」とエクトプラズムが放出されて行く。

そんな状態でも竹村選手の追い打ちは凄まじく、ブナ立尾根以来の「ミストサウナ」攻撃。

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そんな中、ゲリに足を取られて豪快にケツから転倒。

もちろんすぐには立ち上がれない。

ただただ惨めで愚かな己をそこでしっかりと噛み締める。


「もう二度とこんな事はしない...」


ついにそう声に出して言ってしまった瞬間である。


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10:30


もう私の記憶は何度か飛んでいる。

時折子供達の笑い声とか、友達の顔とかが走馬灯のように浮かんでは消えて行く。

いよいよ現世にお別れを告げるときが来たようだ。


そのような状態に追い込まれた私を見て、さすがに竹村選手も気の毒に思ったのか水戸黄門のように「モクさん、雨さん。もうここいらでいいでしょう。」とやっとこさ雨を止めてくれたのである。

そして「これが目に入らぬか」とばかりに「展望台」と言われる場所が登場。

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地図には「槍ヶ岳の眺めが素晴らしい」と書いてあった場所。

もちろん槍ヶ岳なんて見えやしない。

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私に見えるのは槍ヶ岳ではなく、やりきれない思いだけだ。


しかしである。

この展望台から、「あの場所」は見えたのである。

ついに目指す秘境「湯俣川」をこの眼下に捉えたのだ。

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会いたかった...。

やっとあんたに巡り会えた....。


通常なら高瀬ダムからたった3時間で行ける場所を、今私ははるばる30時間くらいかけてやっと目にする事が出来たのだ。

なんて無駄な地獄だったんだろうか?


さあ、待ってろよ秘境湯俣川。

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なんか妙に白く泡立った所ばっかで増水してるように見えるけど、今はそれは見なかった事にしておこう。

音も轟々言ってるよね。

それも聞かなかった事にしておこうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


11:00


終わった。

竹村新道との泥仕合がついに終わった。

やっと竹村新道の終わり、晴嵐荘に辿り着いたのだ。

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ガッツリ倒れ込む。

しばしそこで気を失ってから、もそもそと動き出して濡れた荷物を乾かす。

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そしてその間、この晴嵐荘に存在するという「旭超乾」に匹敵する秘宝を求めて受付のベルを鳴らす。

すると中から可愛らしい女性が登場し「お疲れさまでした」と言って来た。

長く人の温もりに飢えていた私は、思わず「好きです」と言って抱きしめてしまいそうになってしまったがグッとこらえる。

そして彼女にそっと400円を手渡す。

彼女はニヤリとしたかと思うと奥に消えて行く。

そして中から不気味な「シャリシャリシャリシャリ」という音。


やがて外で倒れている僕の元に彼女がやって来て、笑顔でその秘宝を手渡してくれた。

それがこの古代中国に伝わる秘宝「檸檬砕氷椀」なのである。

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軽い脱水状態でこいつに挑んでも大丈夫なのか心配だったが、私はその秘宝にガッと食らいつく。

たちまち疲れきった体に、秘宝から溶け出した檸檬詩露津布がしみ込んで行く。

そして水分を求める体が、「もっともっと」と砕氷を熱く求める。

私はその要望に抗う事が出来ず、砕氷をガッツガッツと体内へ。

すると、たちまち頭蓋骨内にほとばしる電撃ネットワーク。

もだえる私。

突如食らった強烈なる檸檬砕氷椀のベアークロー。

まるでキン肉マンゼブラチームの先鋒「ザ・マンリキ」にこめかみを挟み込まれている気分。

しかしその激痛の先に待っていたのは清冽なる爽快感。

さすがは伝説の秘宝である。



こうして私は「旭超乾」に次いで「檸檬砕氷椀」までも手中に収めた。

しかしあくまでも私が目指すものは、あのひとつなぎの大秘宝「白肌パイオツ」のみ。


檸檬砕氷椀で多少息を吹き返した私は、その大秘宝を目指して再び動き出す。

晴嵐荘からこの橋を渡って、その場所を目指すのだ。

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しかしこの橋の上には、今後の激戦を予感させるメッセージが。

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まさかこんな所にアイツがいるなんて。

ここに書いてある通り、今アイツに出て来られたら私はひとたまりもないぞ。

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ひとたまりもなく抱きついちゃうじゃない。

今はとにかく優しさに飢えているのだ。


そしてこの橋の上から、初めて高瀬川源流部の流れとご対面。

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うすうすは気づいていたんだが、ものすごい流れになっているではないか。

そりゃそうだ。

昨日の国連軍豪雨からの本日の土砂降り。

増水してないわけがないのである。


私の心の中に「まさかここまでパックラフト担いで来て下れないなんて事になるのか...」と不安が大増水した事は言うまでもない。

ここまで来て下れなかったら、本当にただのセルフ拷問じゃないか。


しかしそれは反面、水量が少なそうな湯俣川は増水してちょうど良い状態になっているかもしれないという事を意味する。

私は希望を胸に、大秘宝獲得とパックトランパーとしての偉業の為に先を急ぐ。

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なんか上に行けば行く程勾配がきつくなるのか、水流の激しさと轟音が凄まじい。

写真で見る限りは「すごく楽しそう」と思うかもしれないが、私は激流派ではないしもうそんなに頑張れる体力が残っていないのだ。


やがて私は、ついに「秘境の入口」の前に立った。

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ちょうどこの先が、地図上に「地獄」と書いてあったズバリその場所。

いよいよこの長かった冒険の旅も総仕上げ。

その地獄の再奥にあるという大秘宝「白肌パイオツ」とはどんなものなのか?

そして湯俣川にはもう一つ「熱湯小魔亜舍瑠」という幻の場所も存在するという。

その場所では過去に何度も身ぐるみを剥がされて、多くの旅人が全裸で目撃された事がある場所らしい。

そんな湯俣川で、やっと念願の川下り。


果たして悲願は成就するのか?

それとも「Mr.報われない男」の既定路線は変わらないのか?



随分と長い長い遠回りだった。


いよいよ最後の冒険の始まり。

そしてやっと本題の始まりでなのある。




極マゾ後悔日誌4へ 〜つづく〜






極マゾ後悔日誌2〜ロマンの天使と悲しきサムライ〜

Posted by yukon780 on 04.2014 烏帽子岳〜野口五郎岳/長野 0 comments 0 trackback
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荒波をかき分けて不毛な航海を続ける男がいる。

背中に背負うは家庭に対する罪の重さか。

その余計な十字架の重みは男の肩に容赦なくめり込んで行く。


その中身のほとんどが登山とは全く関係のない物ばかり。

彼は罪を償っているのか、それともただ無謀を背負っているのか?

意識が朦朧としているのか、その足取りは実に重々しい。

そして数歩歩いては立ち止まり、天を見上げて大きなため息をついている。


彼は楽しいのだろうか?

いや、それは愚問なのかもしれない。

この頃の彼にはもはや感情は存在せず、頭上にきらめくは「後悔」の二文字のみ。


そんな男が書き残した「後悔日誌」。

ここまではブナ立尾根の修行風景が克明に記録されており、早くも限界点を突破した見事なプログロッカーの勇姿が綴られていた。

そして何度もエクトプラズムを流出させながら、彼は稜線上の烏帽子小屋に到達する。


だがその日誌の続きを見ると、彼はグロッキーにも関わらず何故か「往復1時間半」の行かなくても良い烏帽子岳に向けてその航路を取っている。

一体彼は何がしたいのか?

日誌を見る限り、過労死しても誰も同情してくれない要素が満点だ。


それではその後の彼の後悔日誌のページを辿ってみる。

貴重な不毛マゾのその後を、しかと観察してみよう。


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8/23  午前10:30


私は烏帽子小屋でいつものようにグロッキーを楽しんでいた。

やはりブナ立尾根で削ぎ落とされた体力はそう簡単には回復しそうにない。

これではさすがに「烏帽子岳」は諦めて、このまま野口五郎岳方面に航路を取る以外に生き残る道はないだろう。


しかしである。

どこからともなく妙な歌声が聞こえて来るのである。


そういえば聞いたことがある。

美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせるセイレーンという魔物の伝説を。


その歌は、どこかサザンの「チャコの海岸物語」テイストで我が脳裏に訴えかけて来た。

私はその歌に誘われるかのように、己の意思と関係なく動き出す。

本来の航路であるはずの野口五郎岳に背を向けて。



♪えーぼーしー だーけがとーくにみえるー

マーゾがあふれーてー かーすーんでーるー

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♪ここっろー かっら すきだよ

マ ゾ

だーきーしーめたーいー

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♪つらくーてー しょっぱいー ひーとー だかーらー

(愛してるよ)

おマーゾー だけーをー

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しまった!

そう気づいた時にはもうすでに私はセイレーンの罠に落ちていた。

すっかり反対方向の烏帽子岳方面に向かって走り出しているではないか。

これは魔物セイレーンによる「マゾの快感物語」の調べだったのだ。



しかしこれでいいのである。

これが通常の登山ならば立派な海難事故。

しかし私はパックトランパー。

人から「意味あるのか?そもそも趣旨がよく分からない」と言われたっていい。

ここからは「トレイルランニングスタイル」で、無駄に烏帽子岳を落とすという新ステージに突入したのだ。


しかもである。

パックトランパー兼オノレドリストの私は、散々猛ダッシュで走って行ったかと思うと、

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再びこのようにカメラを取りに戻って来るという、無駄の上塗り作業も忘れない。

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ハッキリ言っていちいちこんな事しなければ、もっと早く、もっと楽に烏帽子岳往復は可能だ。

だがいくらしんどいからと言って、素直に往復なんてした日には「ロマンの神様」に笑われてしまう。

私はそんな遊び心とマゾ心を忘れた乾いた大人になんかなりたくないのだ。


目的はピークハントではない。

あくまでも私はロマンハンターでありたいのである。


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10:40


私は烏帽子岳に向けて必死で走り続けた。

体力的には常時見事な限界状態を維持しているが、やはり稜線上だけあって景色は素晴らしい。

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そして思いのほかあっさりと烏帽子岳のピークをこの目に捉えた。

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頑張って無理して走って来た甲斐があった。

あのピークからはどんな景色が広がっているのだろうか?

さあ。

これが烏帽子岳山頂からの眺めだ!

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あれ?

なんだろう、あの随分先にある尖った山は?

なんだかまるで烏帽子みたいだ。


そう。

後に知る事になるが、このとき私が立った頂上は俗に「ニセ烏帽子岳」と呼ばれているまがい物の山頂だったのだ。


頑張って倒したと思ったアントニオ猪木が、まさかのアントキノ猪木だった的なガッカリ感が私を支配した。

そして本家の猪木は、想像以上の遠さと険しさ。

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だが、ここまで来て帰ったらマゾの名折れ。

「ニセ烏帽子岳ピークハント!」ではあまりにも情けない響きだ。


正直もうさっさと野口五郎方面に行きたい気持ち満々だったが、我がロマンがその軟弱な思考を許さず烏帽子岳に向けて走らせる。

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しんどいんだが、朝の国連軍豪雨がウソのようなピーカンの空とこの景色。

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あのクソ重い荷物も烏帽子小屋にデポして来てるから、異常に体も軽い。

やっぱりあんな重いもの担いで登っちゃ駄目だね、と改めて再確認だ。


やがて烏帽子岳山頂の様子も見え始め、なんとあの先っちょに登山者の影が。

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まるで登山者のケツに刺さってるんじゃないか?と言うくらいのトンガリっぷり。

高所恐怖症の私は果たしてあそこに登れるのか?

そして切れ痔主の私があの山頂に座ったらどうなるのか?

烏帽子岳に血が滴って、尖った山頂が「イチゴかき氷」みたいになりはしないか?


さすがは本家のアントニオ猪木。

不安は募る一方である。


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11:00


烏帽子岳の取り付きに到達。

見上げると、思った以上に迫力に満ちたアントニオ猪木。

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やはりニセ烏帽子岳とは迫力が全く違う。

しかも正統派レスラーであるはずの猪木は、ひるむ私に対してまさかの「チェーンデスマッチ」を挑んで来たのである。

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正直私は、今回の行程では危険箇所はほとんど無いと踏んでいた。

正直、覚悟が追いついて行かない。


私は必死でチェーンにすがりついてその急登をよじ登って行く。

振り返ればこの余計な絶景。

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急にピーカンになったから怪しかったんだが、やはりそう言う事だったのか。

最近の私の傾向として、絶景が約束された山頂では白しか見えず、高度感を感じたくない局面ではこれでもかという絶景を惜しみなく提供されてしまうのだ。


そして縦方向のチェーンが終われば、今度は横方向に伸びて行くネビュラチェーン。

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見えなくてもいい遥か眼下には、我がスタート地点の高瀬ダムが。

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もう足がガタガタして、恐怖のあまり我が尿道ダムが決壊して大失禁を巻き起こしてしまいそうな勢いだ。

しかもそこを越えてもまた横チェーン。

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縦方向より横方向のが下が見えて恐いのだ。

この執拗な猪木の横チェーン攻撃に対し、ショックで我が横チンもはみ出てしまいそうである。


しかしそんな激戦の末、ついに私は烏帽子岳を制覇した。

もはや岩に同化してしまっているが、山頂標識の横にちゃんと私はいます。

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ほんとはこの尖った先っちょに登りたいんだが、100%失神すると判断。

そしてその場で息絶えて、烏帽子岳の標高を1mほど上げるだけのオブジェと化してしまうと思い断念した。


結果的には「烏帽子岳登頂未遂」と言った中途半端さだが、ここからの眺めは大変素晴らしかった。

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かつて山岳ライターの高橋庄太郎さんが、「個人的眺望スポット・ベスト1」と讃えただけの事はある大展望。

天下の読売新道から赤牛岳がズドンと見渡せる風景は、実に圧巻である。

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無理して回り道して来て良かった。

今後の行程の事を考えるとうんこが出そうになるが、このロマンの前ではそんなものはミジンコの糞のようなものだ。


やがて私はウキウキの浮かれ状態で下山を開始。

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この景色、そしてこの青空。

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私は浮かれていた。

一体何度同じ過ちを犯せば気が済むのか。

浮かれある所にマゾ来る。

この青空写真を撮った直後。

私は見事にカメラのレンズを岩に打ち付けて傷をつけてしまったじゃないの。

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過去にも同じ失敗をしているから抜かりなくレンズ保護フィルターを装着して来ているが、その保護フィルター自体が結構なお値段したのよね。

確か4000円くらいしたのよね。

結局ショックはショック。

私の心の中にも、この時の空のような深いブルーな感情が渦巻いたのは言うまでもない。


ほんの少しでも浮かれた私がバカだったのだ。

私程度の人間が浮かれてしまうなんて、なんて愚かな事をしてしまったのか。

さあ、もう二度と浮かれないように、再びあの「重い十字架」を背負いに戻ろうではないか。

そして遥か先へ先へと続いて行くあの稜線の遥か先の世界へ。

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ちょっとこの距離感見て本気で吐きそうになったが、まだまだ己を追い込んで行くぞ。

本当の航海、そして本当の後悔はここからなのである。


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12:30


灼熱の日差しの中、熱々の棒ラーメンを無理矢理汗だくで食ってチャージ完了。

元気になったのか、逆に疲弊したのかよく分からない状態だ。


そして私はやっとこさ烏帽子小屋に別れを告げ、あの重い十字架を背負って動き出す。

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久しぶりに肩にめり込んで来る重み。

まるで養子の重圧を具現化したかのように我が双肩にのしかかって来る。

体感的には突然「子泣き爺」が背中に乗って来たくらいのアホらしい重さだ。


さあ、やっと無駄な回り道が終わり、ここからが「本来の回り道」の続きである。

目の前には、ずどーんとぬりかべのような裏銀座の大稜線。

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稜線まで到達すればそんなにアップダウンも少なく楽だろうと思っていた私に突きつけられた、あまりにも重々しい現実。

ものすごく登って行かねばならんじゃないか。


それでも私は突き進む。

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再び始まったセルフSMの楽しいお時間。

ブナ立尾根で70%、余計な烏帽子トレランで10%の体力がすでに持って行かれている。

残り20%の余力で、果たしてここから3時間この苦行に耐えられるだろうか?


途中このような小さな池が現れる。

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もういっそここにパックラフト浮かべて「はい、パックトランピング完了。下山します。」と言えたらどんなにか楽だろうと思ってしまう。

しかし貴重なパックトランピング童貞を、こんな「酔った勢いで」的な小さな池で喪失してしまったら一生悔いが残る。

私はここで気合いを入れ直し、野口五郎小屋目指して「ぐえぐえ」言いながら足を進めて行く。

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普通は烏帽子小屋で1泊なので、この時間のここから先は物好きだけが生息する世界。

ほとんど登山者がいないというロンリー航海。

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長く辛く重いこの旅路。

なんだか疲労のあまり目もかすんで来た。

まるで遥か彼方の聖帝十字陵の頂上まで聖碑を運ぶシュウのような気分である。


私は「仁」に生きる男。

子供達の笑顔と未来のため、このマゾを捧げる覚悟は出来ている。


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13:30


私はついに限界に達した。

朦朧とした意識の中でなんとかここまで聖碑を担ぎ上げて来たが、いよいよ体力ゲージがゼロになってガッツリ横になってしまったのだ。

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そして薄れ行く意識の中、周りを見渡せば素敵なコマクサのお花畑。

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ついに私はこの時を迎えてしまったのか。

天に召される時がやって来たのだ。


私はここまで担ぎ上げて来たパックラフトを抱えて目を閉じる。


パックラフト...。

お前は「いつまでも僕と一緒だ」って、そう言ってくれてるんだね…。ありがとう。

パックラフト...。

僕は今凄く幸せなんだよ。

パックラフト...。

疲れたろ…。僕も疲れたんだ。


なんだかとても眠いんだ。


パックラフト...。

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やがて私の元に大量の「ロマンの天使」たちが舞い降りて来る。

そして言う。

「お前のマゾはそんなもんじゃないだろう?もっと苦痛に満ちた顔を我々に見せてくよ。」と。



これにて私は「ハッ」と目が覚める。

約10分程度の事だったが、完全に意識を失っていたのだ。

危うく本当のお花畑に引きづり込まれる所だった。

ロマンの天使達に救われたのだ。


私は再び重い体を起こし、歯を食いしばってその足を野口五郎小屋に向ける。

そんな頑張る私に素敵な応援団が登場。

盟友槍ヶ岳さんがついに顔を出し「ガンバレ」と励ましてくれる。

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一方、前方を見ると妖気をまとったモクモクさんがシュウウっと集結して来ているのも見て取れる。

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余計な応援団だが、孤独な航海者としてはモクモクさんですら愛おしい。

この北ア名物「ヤリモク応援団」の大鐘音のエールを背に、私はその後もヨロヨロと航海を続けたのである。

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いつまでもいつまでも終わりの見えない航海。

時折「あれ?これってナチスの拷問中だったっけ?」と勘違いしてしまう程の精神消耗戦。

しかし助けを求めようにも、ここにはシンドラーさんはいない。

ただあるのはシンドイーな世界。

その助命リストに私の名前は見当たらない。


一体いつになったらこの地獄から解放されるのだろうか?


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14:15


私は人生の岐路に立たされていた。

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左は「お花畑ルート」、右は「稜線ルート」と書いてある。

お花畑ルートはその名の通りお花が素敵な道で、なおかつ巻き道で多少ショートカットが出来るという起伏も少ないピースフルなルート。

そして稜線ルートは、見上げるほどの厳つい岩稜帯を急登して稜線から攻めるという男道で、しかも遠回り。

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私は何の躊躇もなくお花畑コースへと踏み込もうとした。

その時、稜線コースからソロの外人さんが降りて来た。

そして彼はお花畑コースを指差し「ソフトコース」と言い、稜線コースを指差し強い口調で「ハードコース!」と言って来た。


これは挑発なのか?

きっと彼としては親切で言ってくれたんだろうが、私はパックトランパーである前に一人の日本男児。

ここで私がお花畑に突入した日には、日本国民1億2千万人がなめられてしまうではないか。


私は国民を代表し、彼にサムライ魂を見せなければならないと腹をくくった。

私は「アイアムハード!」とハードゲイのカミングアウト風に言い放つと、颯爽と進路を「稜線コース」へ。

すると当たり前だが外人さんのアドバイス通り、大急登をワッシワッシ登らされる羽目に。

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恐らくあの外人さんは本国に帰った時「日本にはまだラストサムライがいた」と日本人を讃えるだろう。


やがてその私は稜線上に到達。

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そして激しい後悔とともに、再びグロッキー侍となってしばしこの場所で大休憩。

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無駄で余計な事だとは分かっちゃいるけどやめられない。

私は目の前のマゾに対して「ノーと言えない日本人」なのである。


そしていつまでもいつまでも終わりが見えて来ない長大な稜線を確認し、教科書通りに「なぜお花畑に行かなかったんだ」と後悔するという定番の展開へ。

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しかしもうここまで来たら進まないと終わらない。

いつも思うが、たまの休みの日に一体私は何をやっているのだろうか?

そもそもパックラフトで川を下るのが目的なのに、今私はその世界から最も遠い所にいる気がしてならない。


一体どこから歯車が狂ってしまったのか?

それはきっと私が生まれた瞬間からなのだろう。


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14:30


大海原にポツンと漂流しているかのような気分だ。

この長大な稜線はいつになったら終わりが来るのか?

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もはや私の動きは酔拳の達人のようにヨロヨロとした悲惨なものになっていた。

とにかくこのどこまでも続く距離感が精神に与えるダメージは計り知れない。

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しかも気がつけば、烏帽子岳の時にあれ程ピーカンだった空はいつも通りの状態に。

実に重苦しいお馴染みの世界観になって来たぞ。

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恐らくモクモクさんはこのタイミングを待っていたのだ。

ピーカンで浮かれさせてまんまと余計なトレランをさせて私を泳がせ、いよいよ心も体も限界になって来た時に照準を合わせて畳み掛けて来たのだ。

やがてモクモクさんは「今だ!」というかけ声とともに、稜線上に押し寄せて来る。

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どんどん白に塗り替えられて行く青い空。

ついに私から青空という唯一の慰めアイテムを奪って行ってしまうのか?


私も必死で抵抗を続け、なんとか稜線上のギリギリの所でモクモクを食い止める。

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しかし直接攻撃では埒が明かないと思ったのだろうか。

モクモクさんは間接攻撃に打って出た。


ついに「ゴロゴロゴロゴロ」という重低音が耳に入る。

明らかに私は雷雲エリアに入り込んでいる。

いよいよもうのんびりはしていられない。


私は恐怖にかられ、精一杯の早足で先を急ぐ。

もちろん急ぐ程に重い荷物はメリメリと肩に食い込んで来る。

それでも急ぐ。

私の「早く、早く...。早く野口五郎小屋へ。五郎へ。五郎五郎五郎...」という声に、天も「ゴロゴロゴロゴロ」と素敵にハモって来る。

瞬く間に世界はジョジョ的な効果音に包まれ、まるで生きた心地がしない。


私はついに「24キロ背負ってトレイルランニング&トレイルライトニング」という新世界の住人となった。

もうどう形容していいか分からない程の地獄感。

パックトランピングとはなんと過酷なレジャーなのだろうか?


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15:50


頭上から落ちて来そうなエレキテルの恐怖に晒され続ける絶望と極度の疲労。

私はもはや顔面蒼白だった。

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いつ発生するかもしれない落雷に対し「だめよー!だめだめ!」と叫びながら大急ぎで移動。

しかしその叫びに対して「上島竜兵的押すなよ3回目」と捉えたモクモクエレキテル連合は、さらにゴロゴロの頻度を上げて近づいて来る。


あまりにも辛すぎるウルトラヘビーハイカーとしてのスピード縦走。

もう目の焦点も合わない。

吐きたくても胃液すら枯れ果てている。


そんな中。

突如目の前に「300m」という文字が。

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一体何が300mなのか?

目指す野口五郎小屋までの距離なのか?

それとも落雷ポイントまでの距離なのか?

はたまた、この先に300ものマゾ(m)が潜んでいる事を予告しているのか?


私は最後の希望を胸に急いだ。

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いよいよ近づくゴロゴロ音。

良く考えたら、私はちょうど良い事に「パドル」を背負っている。

これは避雷針というか、どうぞ私に直撃してくださいと言わんばかりのアイテムではないか。


なぜこんなものを背負っている時にゴロゴロしちゃうのか?

そんな極限の恐怖の中、ついに「200m」「100m」とその時が近づいて来た。

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しかし一向に小屋の姿が確認できない。

やはりあれは落雷ポイントの啓示だったのだ。


と、思ったとき。

丘の先にかすかに青い屋根のようなものが見えた。

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私は狂ったようにそこめがけて走った。

実はもう水分が底をつきかけており、ここが小屋じゃなかったら私はリアルアウト。

そしこれが小屋じゃなかったら、その場でパドルを組み立てて落雷自害を遂げてやる。


私は丘を越えた。

するとそこには、やっっっっっっっと現れた野口五郎小屋の姿が。

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私は思わずその場にうずくまる。

ついに、ついに。

やっと私は「回り道の中間地点」に到達したのだ。

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すぐに休みたい所だが、まだ私にはやるべき事がある。

実はこの場所には「白肌パイオツ」と並び称される大秘宝があるというのだ。


私はすぐさま宿の主の袖の下にそっと600円忍ばせる。

すると主は「ニヤリ」と笑ったかと思うと、その大秘宝をそっと私に手渡してくれた。


ついに私は古代中国の秘宝「旭超乾」を手に入れたのだ。

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この艶やかなシルバーのボディ。

滴り落ちる清冽なる雫。


こいつに到達するまで、実に10時間もかかった。

しかしこの秘宝は、10時間の壮絶なマゾを生き抜いた者にだけその真の力を発揮すると言い伝えられている。


私は緊張と感動と疲労で手をプルプルさせながら、一気にその秘宝を体内に送り込んだ。

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黄金に光り輝いた妖精達がシュパッ−と駆け抜けて行く。

そしてキリリと冷えたその弾丸は鋭く我がノドゴシを刺激。

刹那、パッと何かが弾けたかと思うと、それは春の小川のような優しいせせらぎとなって体内へ。

そして夏の鮎のような美しい動きで我が五臓六腑たちの元へと泳いで行く。

そして風になびく秋の稲穂のように、体の細胞がこの豊穣の時に悦びの歌声を上げる。

やがて私の体にしばしの静寂が訪れ、冬の柔らかい雪のように幸せが降り積もる。


と、いう情景を1枚の写真で現すとこのような顔になる。

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ちょうど鮎が五臓六腑めがけて泳いでいる時の写真である。


聞きしに勝る秘宝の威力。

聞けばこの秘宝は下界でも容易く(しかも安く)手に入れる事が出来るという。

しかし下界にあるそれと、この10時間マゾの果てに邂逅した快感とは全くの別物だ。

それは「ロマン」と言い換えてもいいだろう。



ひとまずこれでやっと一つ目の秘宝は手に入れた。

しかしあくまでも私が目指すのは、まだ遥か先にある大秘宝「白肌パイオツ」。


そもそもやたらと長い航海日誌になっているが、まだ私はパックトランパーとして何一つ達成していない。

だってまだパックラフト漕いでないんだもの。



明日は野口五郎岳、そして真砂岳という二つの山を越える。

そして「健脚道」と言われる竹村新道を下降して、白肌パイオツを目指す戦い。

もちろんそこから「パックトランパー」としての真の役目が待っている。

いい加減「担ぐ」から「漕ぐ」へとシフトしたい。


まだまだ航海は半ば。

しかし後悔はすでにピーク。



しかし笑われたっていいさ。


わんぱくでもいい。


たくましくマゾって欲しい。



それが私の願いである。




極マゾ後悔日誌3へ 〜つづく〜



極マゾ後悔日誌1〜限界エクトプラズマーの絶望〜

Posted by yukon780 on 29.2014 烏帽子岳〜野口五郎岳/長野 0 comments 0 trackback
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静かに佇んで遠くを見つめる男がいる。

一見優雅に山を楽しんでいるかのようなこの後ろ姿。


しかし彼はこの時すでに死の直前状態だったりする。

いや、むしろもう死んでいる状態と言っても過言ではない。

彼は立ったまま息を引き取っているのである。


ではなぜこの男がこんな北アルプスの山奥で昇天してしまったのか?

生前の彼を知る者はこう言う。

「まあいつかこんな日が来るとは思ってましたがね。そもそも計画がずさんなんですよ。」と。

そしてその人は男の出発前の様子も語ってくれた。

「なんかパックトランピング?マックトランポリング?とかなんとかで、男のロマンを成就するんだと息巻いてましたね。」と。

そして続けて「ほんと、可愛い子供達を残して...。胸ぐら掴んでバカヤロウって言ってやりたいですね。」と目に涙を浮かべて話してくれた。


男のロマンを求めて旅立った男がなぜこのような結末に陥ったのか?

立ち往生する彼の横の木には、ダイイングメッセージなのか「後悔」という文字が刻まれていたという。


これは「パックトランピング」という新世界へと飛び込んだ男の魂の「後悔日誌」。

3時間で行けるはずの目的地に、あえて24キロザックを担いで「15時間」かけて到達しようという「急がばマゾれ」の大消耗戦。


いつかこの日本に「パックトランピング」という素敵な旅スタイルを定着させるべく。

今一人の罪人が重い十字架を背負ってゴルゴダの大急登へと消えて行く。

ゴカイのような男が誤解して航海に出て豪快に後悔する様を公開するだけの後悔日誌。


その日誌のプロローグ部分は前回の記事を参考にしてもらいたい。

後悔日誌は七倉の駐車場で彼が車中泊をしている所から始まる。

それではその日誌を追いながら、ゆっくりと彼の死の真相に迫って行くとしよう。


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8/23 午前4時


私は携帯のアラームが鳴るより先に目を覚ました。

いや、正確に言うと「強制的に目を覚めさせられた」と言った方が適切だ。


我が出発時間に近づけば近づく程にゲリラ豪雨の勢いは増し、もうゲリラというより「国連軍豪雨」と言っていいほどの七倉集中攻撃。

車の屋根を叩く雨の音は「ズババババババッー!」という絶望的な音を奏でている。

そして四方八方で恐怖を感じる程の轟音が響いている。

例えるなら、私の車が1万人のオーディエンスに囲まれた挙げ句に強烈なスタンディングオベーションに晒されている状態だと言えば伝わるだろうか?


別に私は感動的な舞台を演じたわけでもないし、素敵なピアノソロを奏でたわけではない。

ただ単に仮眠を取っていただけなのだ。


この「早朝スタンディングオベーション」という、元気が出るテレビ的な演出によって我が元気は完全に奪われた。

結局寝たのか寝てないのかよくわからない仮眠はたったの1時間。

こんな寝不足状態で、これから始まる大冒険をこなしていけるのだろうか?


そもそもこんな国連軍の一斉射撃の中では、無事に登山口にすら辿り着ける気がしない。

やはり今回は厳しい航海になりそうだ。


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午前5時


相変わらず私は国連軍の砲火に晒されている。

一応車内で出発準備は済ませたが、とても外に出られる状態じゃない。

まだこの航海日誌は1ページ目なんだが、もう今にも「撤退」の二文字を書き込んでしまいそうな勢いだ。


もはやいっそこのまま白馬まで移動して、ハッポーNさんと2日間飲み明かそうかとリアルに思い初めた時。

なんと奇跡的に雨が上がったのである。

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こんな事は我が人生ではそうそうない事だ。

しかし過去に同じような事はあったが、その時は大概「いっそあそこで晴れてなければこんな目に遭わなかったのに」と後悔する事が多かった。

果たしてこれは吉兆なのか、それとも悪魔の誘惑なのか?


そもそも昨晩の豪雨で沢が増水してたら川下りなんて出来ないし、わざわざパックラフトを担いで行くのはただのアホなのではないか?

鴨がネギ背負ってマゾ鍋に突っ込んで行くようなものではないのか?


しかし不安があるからこその冒険。

我がロマンの航海に後悔の二文字は無し。

パイオニアとはいつだって孤独と不安との戦いなのである。


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5:45


私はついに高瀬ダムに降り立った。

七倉で5:30発の始発タクシーに乗って、ついにこの場所にやってきたのだ。

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ここで再度「宝の地図」を確認しておこう。

ここから一気に3時間南下すれば、目指すべき伝説の秘宝「白肌パイオツ」に辿り着ける。

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しかし「男の航海」とは、回り道をしてこそ初めて見えて来るものがあると言う。

なので私はもちろん、ここから一気に北アルプスの裏銀座の稜線までがっつりと登って、そこから大縦走して秘宝を目指すという余計な航路を選んだのである。

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人は「なぜそんな無駄な事を」と言うだろう。

しかしパイオニアとは、時にそのような世間から異端者を見るような目に晒される事があるというもの。

「Because It's There.」

そこにマゾがある限り、私は荒波に向かって航海をするのである。


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6:00


私は最短ルートに背を向け、西に向けて進路を取った。

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荷物がデカ過ぎて、後姿だけ見ると新手のゆるキャラにしか見えない。

今にも北アルプスを10連泊くらいしそうな物々しさだが、こう見えても「1泊」で「小屋泊」だというから驚きだ。

自分でやってることだが、私自信が一番驚いている。


途中、不動沢に出くわす。

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小さな沢なんだが、分かり易いほど見事に増水&濁流化している。

この調子で明日の川下りは可能なのだろうか?

しかし遠回りしてしまっている私には現地の状況を知る由がない。

内心「もうパックラフト置いて行って普通の登山に切り替えるべきでは...」などという弱音が飛び出してしまったが、もちろんそんなものは即座に丸めてベンキマンに流してやったさ。


そうこうしていると、私はついに「ブナ立尾根」の取り付きに到着。

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ブナ立尾根とは「北アルプス三大急登」のひとつで、別名「マゾ立尾根」とも呼ばれてるとか呼ばれてないとかの修羅の道。

苦痛に快感を見いだす事が出来る者以外、決して踏み込んでは行けない大急登なのである。


そんな修羅の国に、私は7割方登山とは全く関係ない物を背負って突っ込んで行く。

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相手はゴング早々から壮絶な急登でひたすら打ち合いを所望。

そして白馬男塾の男爵ディーノ(不帰ノ嶮)の時に見た、お馴染みのポップ看板が。

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この陽気な転落サインがある場所は大抵ろくな所ではない。


そして三大急登と言われるだけあって、相手はただただ斜に構えて私に迫り続ける。

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大抵三大急登と言われている場所は、雑誌とかで「確かに急登だが意外とあっさり登れるものである」などと書いてある。

しかしそれは通常の登山者が通常の装備で登った場合の事だ。

パックトランパーである私が24キロの無駄な装備を背負って三大急登に登ると、それはもはや拷問に近いものがある。

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もはや一歩体を押し上げるごとに、重さと歯の食いしばりで耳から「ブシュッ」と血が出そうな程にしんどいのである。


しかもである。

私はパックトランパーでありながら、著名なオノレドリストとしても名を馳せる男。

耳から血を吐きながらフガフガ頑張って登って行っても、

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再びカメラを回収しに戻って行かねばならないのだ。

ただの地獄の上塗りなのだが、冒険にはいつだってこのような遊び心とマゾ心が必要だと私は信じてやまないのである。


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6:30


朝の国連軍豪雨。

そしてそれが止んで、一気に快晴が訪れるという事が何を意味するのか。

それはこのブナ立尾根の世界が「ミストサウナ状態」になるという事を意味している。

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大量に山に降り込んだ雨が一気に蒸発し、そこに酷暑を伴った灼熱の陽光が降り注ぐ。

一見涼しそうに見える光景だが、ブナ立尾根は今、湿度120%の「ムンムン地獄」と化したのだ。

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人の5倍新陳代謝が悪い男と言われる私ですら、もう何もしてなくても汗がジャージャーたれて来る。

大げさではなく、本当にサウナの中を大人の人間担いで階段登ってる気分。

通常の苦痛に「不快感」というスパイスを、容赦なく弱った傷口に塗りこんで来るブナ立尾根。

なぜ私はこの道を選んでしまったのだろうか?


このムレムレ地獄からの発汗ハッスルタイムは、最近緩くなって来ていた我がメガネにまで影響を及ぼす。

一歩登る度に、汗でメガネがずれるのである。

これによりいちいち人差し指でメガネをクイクイと上げねばならないと言う、「横山やすしスタイル」でのクライミングを余儀なくされる事に。


こうして私は壮絶な不快感を身にまといながら、その辺の葉っぱにまでいちいち「怒るでしかし」とツッコんでいるかのような状態で地道に高度を上げて行く。

重い、辛い、ムレムレ、発汗、やすし。

はっきり言って私は早くも後悔し始めている。


しかしまだ冒険の航海は始まったばかりだ。

今はとにかく「小さなことからこつこつと」をモットーに突き進もう。


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7:00


あれからどれだけ登り続けた事だろう。

相変わらず私はサウナの中を彷徨っている。

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そろそろ景色が開けて来る場所だから、せめて景色で心を慰めたい所。

しかしもちろん、一切が白いベールに包まれている。

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もうここが北アルプスなのか、それとも地元の裏山なのかの判別も出来ない。

ミストサウナも太陽が高くなる程に蒸発の勢いを増して行き、もう雨が降っているかのように全身がビショ濡れだ。

晴れているのにも関わらず、結局私は水がしたたる良いおマゾをキープするしかないのか。


それでも私はジャングルのような急登を、大汗かいて軽く脱水状態になりながら登り続ける。

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中年がヌレヌレになりすぎると、若干キツい匂いを発し出す。

ある一定の年齢を超えると、何か得体の知れない細胞が化学反応を起こして新感覚の匂いを発生させる。


いよいよ体力的な問題だけじゃなく、五感にまで訴えて来るブナ立尾根。

とにかく辛くても「小さなことからこつこつと」だ。


しかしそんな私を励ましてくれるものがこの尾根には存在する。

実はこの尾根は登山口が「12」で、そこから稜線に出る烏帽子小屋が「0」として、その間に数字を書いた看板が各所に置いてあるのだ。

もう大分登って来たし、そろそろ半分の「6」くらいに到達した頃だろう。

そう思っていた私の前に、こいつが現れた。

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私はこの標識の前で2分程気を失っただろうか。

何度も心の中で「これ逆に刺したんだよね?裏返ってるんだよね?」と呟くが、間違いなくここはまだ「9番」。


この瞬間、私の中に今まで感じたことのない感情が渦巻いた。

これはこのまま進んでいっても、本気で疲労で動けなくなるかもしれないぞと。

これはリアルな疲労遭難してしまうぞと。


正直、ここまで来るだけでかつてない負担が体にのしかかっていた。

この9の文字が歪んで「苦」に見える程だ。

どう考えても絶対にゴールできそうにない。


私は本気で「9番撤退」を意識したが、一度ここでガッツリ大休憩を取ることにした。

いつもの私ならソロの旅ではほとんど休憩を取らないが、やはり24キロザックの重さは想像以上に体力の消耗を誘発していたのだ。

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もはや「グロッキー」というタイトルで日展に出しても良いぐらい芸術的なグロッキー。

今回に関しては「ヤラセ的己撮り」にならないよう、すぐにでも倒れ込みたいのをグッとこらえてカメラをセットしてからバッタリと倒れ込んでいる。

もちろんカメラはそのまま放置し、私はこのままピクリとも動かずに大休憩した。


ここにきて睡眠時間1時間のしわ寄せがどっと押し寄せ、何度も意識が持って行かれそうになる。

しかしここで寝てしまったらそのまま本寝、もしくは本死になりそうだったから根性で意識をつなぎ止めながら体を休める。

まだ全体の行程の最初の方なのに、もう色々とギリギリな状態だ。


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7:30


結局あのあと、そのまま休憩してたら本気で駄目になると判断してすぐに出発。

さすがに己撮りはもちろん、写真撮影も自粛して本気でブナ立尾根とガップリ四つの真剣勝負。

もう鬱陶しいからメガネも外してやすしスタイルからも脱却。

その代わり私は乱視なので、今度は目までもが疲れて景色もブレると言う新しい不快ステージへ。


しかし順調に高度を上げ、もう稜線は近いだろうと思った時。

私は、目の前に現れた血で書いたかのような「7」の文字を見てその場に倒れ込んだ。

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随分距離を稼いだつもりが、結局はお釈迦様の手のひらの中の出来事だったのだ。

所詮歯を食いしばってこつこつ頑張っても、ブナ立尾根の前では私は小さい人間に過ぎないのだ。


しかしこのイバラの道を選んだのは私自身。

冒険の航海とは、百難の先にこそ真の秘宝を見いだせるはず。

そう己に言い聞かせ、私はそこからも「フンガフンガ」と愚直に登り続けた。

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それを見て、ブナ立て尾根も「ザマスザマス」とばかりにサウナのミスト大増量。

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そして「死ぬでガンス」と、急登急登また急登。

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壮絶なるノーガードの乱打戦。


そうこうしながらついに、やっと「中間地点」の「6番」到達。

そして再び美しくグロッキー。

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もはや「プログロッカー」と言ってもいい程に職人的な限界具合。

今にもこのまま幽体離脱が始まりそうな勢い。

それでも私は、再び小休憩しただけでキョンシーのようにムクムクと動き出す。

まだ先は長いし、長過ぎるが、いよいよここからが正念場だ。


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8:30


私はもう「動くだけの肉」と化していた。

すでに思考回路から「言葉」というものが失われ、もはや人肉を求めてスラム街を彷徨うだけのゾンビ状態。

たとえ今「スリラー」のイントロが流れて来ても、絶対に私だけは踊リ出すことはない。

それほどの精度の高いゾンビ状態で、私は相変わらずブナ立尾根と戦っていた。

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やがてついに、このミストサウナの「モーニング大放出サービスタイム」が終わりを告げる。

やっとあのまとわりつくような不快感から解放された。

と、同時に「カッ」という音が聞こえて来そうな程の灼熱の陽光が照りつける。

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この急登樹林帯での灼熱タイムは急激に私から体力と水分を奪って行く。

いつも晴れないくせに。

こんなところは曇りでいいのに。

このままでは遠赤外線で、じっくりと美味しく焼き殺されてしまう。


いよいよ「死」に到達しそうになる頃、ついに「4」に到達。

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そしてこの死線を越えて行くと、ようやく、ほんとにようやく景色が開けたのだ。

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よくぞこんな無駄な荷物を背負ってここまで登って来たものだ。

もうその姿は、4等三角点設置を目論む陸軍測量隊にしか見えない。

もしくは新種のズゴックだ。


さあ、景色が開けたからと言ってもまだまだ先は長い。


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9:30


なぜだろう?

かつて私が「ついに靴擦れしない登山靴を手に入れた」と喜んでいた我が登山靴。

なぜここに来て「猛烈なくるぶしの痛みと踵の靴擦れ」を提供し始めたのか?

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やはり重量ザックが足にもたらすマゾは上質である。

久しぶりに味わう、この何とも言えない安堵感。

かつてMr.靴擦れと言われた私としては、まさに水を得た魚になった気分である。


こうなってくると、積み重ねた疲労感も手伝っていちいち三脚立てて己撮りする余裕もなくなって来る。

このように手撮りするのがやっとだ。

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ほんとになんでこんなクソ重いもん背負って来てしまったのだろう。

しかしこれこそが「ロマンの重さ」に他ならない。

そう己に言い聞かせて無理矢理「後悔」を押し殺し、無理して己撮りして進んでいく。

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だが相手は「北アルプス三大急登」。

そんなロマン論や根性論で立ち向かえる相手ではない。

結局「2番」に到達する頃、私は再びプログロッカーとしての職務を全うすることになる。

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この時の写真は一切加工してないものだが、何やらおかしなものが映っている。

拡大してみる。

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これぞ史上初めて撮影された「人体からエクトプラズムが吐き出される瞬間」という貴重な写真である。

エクトプラズムとは死を迎えた者の肉体から、霊体、あるいは、霊魂が抜けた状態が視覚化されたもの。

このブナ立尾根で超重量ザック担いで「2番」まで到達すると、このような超常現象が起きるようだ。

このような発見があるから、やっぱり回り道はやめられない。


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10:00


なんとか霊体の流出を阻止して飲み込んだ私は、再び急登の嵐の中にその身を投じた。

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もうすでに5年くらい同じ場所を登り続けている気分だが、着実に私は稜線に近づいている。

しかし気を抜くとすぐに意識は持って行かれるし、隙を見ては穴という穴からエクトプラズムが流れ始める。

もはや私は生きているのか、それとも死んでいるのかよく分からない気分に。

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(ナレーション)
※ここで撮影されたのがオープニングの写真である。「むしろもう死んでいる状態と言っても過言ではない」というのはこのような前置きがあったからだとよく分かりますね。ちなみにここに写っているが雲なのか、それともヘソから多量に溢れ出したエクトプラズムなのかは今もって不明です。


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10:20


私は登り続けた。

登るという行為そのものが、この体のDNAに刻み付けられた本能かのように。

川を遡上する鮭のように、何も考えることなく。


やがて小屋らしきものが見えて来た。

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ついにやったのである。

やっとブナ立尾根を撃破し、稜線の「烏帽子小屋」に到達したのである。

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もはや写真すら撮ってないが、もちろんここでも私はプログロッカーとしての勇姿を披露したことは言うまでもない。


そしてそこにいた登山者が「すごい荷物ですね。何日間縦走してるんです?」と聞いて来たが、私は「いや、今日来て明日帰るのです。しかも小屋泊です。」と言う。

もちろんその人は「そんなバカな」という顔で私を見る。

そしてパドルを発見して「まさか、これボート積んでるの?」と聞いて来る。

私が「そうです。湯俣川を漕ぐのです。」と言えば、ますます顔一杯に「不思議」という文字を浮かべて「何故そんな大回りを...」と言ってこちらを見て来る。

私はふっと視線を空に向け、目を細めて渋い声で答える。

「ええ、私はマゾですから...。」と。



かつて登山家「ジョージ・マロリー」は言った。

「そこに山があるから」と。


その発言から91年。

ついにこの日本にもその孤高の精神を受け継ぐパイオニアが現れたのである。


私はその場にザックを起き、目的の野口五郎岳方面に背を向けて動き出す。

もちろんその方向は進行方向と逆の稜線。

登山者も「まさか」という表情で私を見ている。

そう、私は「回り道のさらに回り道」である、行かなくても良い「烏帽子岳」方面に向かって動き出したのだ。


ここで再び地図を確認してみよう。

このように素直に野口五郎小屋を目指せばいいのに、

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何故か余計な「往復1時間半」を加算してしまう。

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限界を迎えた体とは裏腹に、私のスーパーマゾスターとしての血が安住の道を選ばせない。


もちろん本来の登山者は通常この「烏帽子小屋で1泊」するのが常道。

そこをさらにこの荷物背負って野口五郎小屋まで行くだけでもしんどい行程なのに、あえてやらかしてしまう私。

そんな自分が私は大好きだ。



もちろん時間に猶予はないので、ここからが「パックトランパー」の腕の見せ所。

「登山」でハイクアップした次は、「トレイルランニング」で速攻で烏帽子岳撃破するのだ。


この判断が吉と出るかマゾと出るか。

はっきり言って死の寸前というか、多分ここまでで2,3回死んでしまっているんだが、まさに「ここからが」勝負なのである。

さあ、余計な往復ランニングからの3時間半大縦走が私を待っているぞ。



どこまでも前を向いて航海を進めるのみ。


そこにロマンがある限り。



そこにマゾがある限り。





極マゾ後悔日誌2へ 〜つづく〜



マゾゴンクエスト序章〜沢と山と大地と呪われしマゾ君〜

Posted by yukon780 on 27.2014 烏帽子岳〜野口五郎岳/長野 2 comments 0 trackback
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ついにこの時がやって来た。

アウトドアでマゾに邁進し、ダーマ神殿に通い続けること十余年。

その男はやっと伝説の職業に転職したのだ。



思えば彼の最初の職業は「カヌー野郎」だった。

そこでコツコツと経験値を積み、ソロでアラスカくんだりまで冒険できるようなると「遊び人」に昇格。

しかし結婚というディープなダンジョンに迷い込んでしまった事により、むなしく「育児野郎」への転職を余儀なくされた。


これにて数日に渡る長期旅は無理になったが、ダーマの神官はそんな育児野郎に手を差し伸べた。

子供を背負った日帰り登山なら問題ないだろうってことで、「子背負いハイカー」という職を斡旋。

それがきっかけで彼は山にはまり、結局勝手に一人で山を登り出して見事に「登山野郎」へ昇格。


だがやはりそんな勝手な行動を家庭内ハーゴンが見過ごすはずがない。

男はいてつくはどうで職をはぎ取られ、空しく「奴隷」という身分へと落とされた。

だがそれでも彼は苦肉の策として、「みんなが寝ている早朝だけなら」という理由で「早朝トレイルランナー」という新しい隙間産業を見いだした。


で、なんだかんだとハーゴン様の目をかいくぐりながらも彼は意地の冒険を続けた。

カヌー、登山、トレラン、子連れアウトドア。

そんな苦難の活動がダーマ神殿に評価され、彼は見事に「スーパーマゾスター」という上級職へと昇格。

この時点で男は二児の父として「やりすぎた男」という称号まで手に入れた。


やがてそのやりすぎた男は、よせばいいのに伝説の勇者のアイテム「パックラフト」を手に入れる事になる。

男はそのアイテムを持って再びダーマ神殿へ。

するとついに、スーパーマゾスターを極めた者だけが転職可能な伝説の職業「パックトランパー」に昇格する資格を得たのだ。



「パックトランパー」

それは「パックラフト」「登山」「トレラン」「冒険」を中途半端に極めた奴隷のみに許された伝説の職業。

マゾの奥義を極めんとする求道者達が行き着く最終地点。

己の限界までマゾりきれる者のみが体験する事が出来る珠玉のブラック職業なのである。



前置きが長くなったが、要するに「今の僕に出来る究極の遊び」こそパックトランピング。

そのようなアウトドアのジャンルはないので、便宜上勝手に「パックトランピング」と名付けたが、これは「パックラフトを背負ってトランピング(登山・放浪・旅)して川下りまでしてしまうというお得なマゾパック」という意味が込められている。


パックラフトを手に入れた事で、日本でもアラスカ的な旅が出来るのではないか?

私は奴隷だから長期の旅は無理でも、ギュッと詰め込んで無理すれば心躍る大冒険が出来るのではないか?

登山もしてトレランもして川下りもし、秘境を冒険したり極上の野天風呂に浸かったり釣りまでしちゃったり。

もちろんマゾも欠かさない。


今こそその時。

パックトランパーに転職した今こそ冒険の大チャンスなのである。


そんな彼の挑戦の記録。

まだ誰も踏み込んだ事がないであろうパックトランピングという世界。

しかし彼は後に知る事になる。

それはただの「苦行」だったという事に。


その苦行の模様は次回以降お送り致します。

今回はあくまでもプロローグ。

自分的に書いておきたいだけで、他人的にはどうでもいい回。

今回の旅に対する思い入れを、パックトランピング誕生の歴史とともにどうしても書いておきたかったのです。


さあ、お暇な方だけどうぞ。


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その全ての始まりは半年前。

僕がまだスーパーマゾスターだったあの頃。

僕は冬の八ヶ岳でもう一人のスーパーマゾスター「ランボーN」に出会う事になる。(参考記事:ヤツオリンピック


その頃ランボーNはすでにパックラフトを所有していた。

そして僕もパックラフトの購入を画策していた頃。


二人の同業者は意気投合し、早速お互いの嫁には見せられない悪い顔で密談を交わした。

世に言う「赤岳鉱泉サンマ会議」である。


内容は岐阜の川浦渓谷をパックラフトで探検しようというもの。

しかしさすがはスーパーマゾスターのランボーN。

決行日が近づくにつれだんだん話がマゾ方面に脱線し、「せっかくだから九頭竜湖漕いで沢から山に侵入して、パックラフト担いで沢登りで山越えて、反対側の沢でビバークした後で川浦渓谷に攻め込もうよ。」という変態プランが浮上。

まさに日本のパックトランピングの夜明けを告げる歴史的なやり過ぎプラン。

これにコーフンした僕は必死の思いでハーゴン様に究極呪文「ドゲザ」を連続で炸裂させ、2日間の自由を得る事に成功したのだ。


しかしである。

7月の決行日を目前に大変な事実が発覚。

ハーゴン様に了承を得た時はお互いに気づいてなかったんだが、なんとその決行日がハーゴン様の「お誕生日」だったという大失態。

しかもその2日前がりんたろくんの誕生日なので、まさにその決行日は「合同お誕生日パーティー」の日だったのである。


さすがに嫁と子供の誕生日を振り切ってまで遊びに行ったら、帰宅した頃には僕は旧姓に戻されているいる可能性が大だ。

もしくはハーゴン様の「もえさかるかえん」をモロに食らって、二人の誕生日がそのまま僕の命日になりかねない。

しかもご両親の手前もあるし...。



と言う事で川浦渓谷探検は2週間後に延期に。

そしてついにその日がやって来た。

台風8号とともに...。


「過去最強クラスの台風」とという謳い文句で直撃した台風。

河川や沢が増水する中、河川や沢だけで遊ぼうとしている二人のスーパーマゾスターに突きつけられた現実。

そして結局川浦探検は中止になった挙げ句、代替え案で突入してしまったのがあの伝説の「白馬男塾」。

結局これにて僕はパックトランパーになりそこねたばかりか、男塾でスーパーマゾスターとしての経験値をさらに荒稼ぎした事は記憶に新しいところだ。(参考記事:白馬男塾3部作


これにて今シーズン中のパックトランパー転職の夢は途絶えたかに見えた。

しかしハーゴン様との粘り強い戦いは続いていた。

「やりすぎた男」とともに「諦めの悪い男」という称号も所有する男は、「8月は育児に没頭しますんでどうか1回だけチャンスを!我に光を!」と神々しく土下座。

これに対して気の毒に思ったのかサド心が満足したのか、見事に8月頭に1泊2日の自由権を獲得。


男は喜び勇んでその日を待ちわびた。

楽しみ過ぎて、決行日の1週間前にはすでにパッキングが終わっているという準備の良さだ。

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ランボーNは都合が合わなかったんで、今回は川浦渓谷じゃなくて新たに発見したルートを開拓しに行くのだ。

もう今からワクワクが止まらない。

ついに私は念願のパックトランパーに転職できる時が来たのである。


そしてついにその日がやって来た。

台風12号とともに...。


「経験した事のないレベルの大雨」という謳い文句で直撃した台風。

ダーマ神殿はまだ私に試練が足りないと言うのか?


男は目に涙を浮かべながら、ダーマの神官にかけよる。

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男は叫ぶ。

「いいかげん私をパックトランパーに転職させてくれ!」と。

しかし神官は、

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と、言うじゃない。


どうやらまだまだ私には試練が足りないようだ。

しかしまだまだ諦めるわけにはいかない。


8月は割と家族の予定もなく、ハーゴン様も比較的穏やかだったんで翌週への延期を許可してくださった。

しかし翌週は見事に「雨」。

そしてまた翌週へ延期。

見事に「雨」。


そう。

この男のパックトランパー転職へのアツい想いのせいで、なんとこの日本から「夏の青空」がごっそりと奪い去られてしまったのである。


察しのいい読者の方はこの夏の雨ばかりの異常気象に対して「ははあ、またアイツが遊びの計画を立てやがったな。」とお気づきになった事だろう。

本人としても、まさかひと夏丸ごと持って行かれるとは思っていなかったのである。


思えば去年の夏。

僕は「夏の完全自宅謹慎」を余儀なくされていた。

嫁から「8月はどこにも行くな」と命令され、地獄のような自宅謹慎の日々。(参考記事:何もできなくて...夏

そんな去年の夏は、連日「大快晴」が続いていた事を思い出す。

結局僕は自宅にいても外にいても、夏を楽しむ事は許されないのである。


しかしもうこの2週連続の延期スライドで我がストレスはピークに。

お預けを食らえば食らう程、じらされればじらされる程に悶々度の上昇に歯止めがかからない。

もう「3週間前」からパッキングの済んでいる我がザックも泣いている。

IMGP5162.jpg

「ご主人様、いつになったら私は旅立てるんですか?」と責めるような目で僕を見て来る。

もうこのパッキング済みのザックを毎日見てると、我が胸中は引き裂かれる思いなのである。



そんな中迎えた8月第4週。

8月の5週目はさすがにハーゴン様に用事が出来たので、この第4週こそが転職のラストチャンス。


だがもちろん言うまでもなく、週末の天気予報はしっかりとオシャレな傘が乱舞している。

だが限界を迎えたその男は「例え天からまめぶ汁が降って来ようが俺は行く。行くと言ったら行くのだ!」と宣言。


おそらくこの試練を乗り越えないと、パックトランパーへの転職のお許しが出ないのだろう。

確かに言われてみれば「晴れた世界を楽しもう」なんて思った時点でダーマ神殿の怒りを買っていたのだ。

私がスーパーマゾスターである以上、その職務は全うしないといけないのである。



という事で、やっと男は旅立った。

向かった先は、転職の舞台に持って来いの北アルプス。

彼が国土地理院の地図とにらめっこしながらあぶり出したステージだ。


実は彼は、北アルプスのとある秘境に「白肌パイオツ」という名の伝説の秘宝があるという情報を得た。

今回はその秘宝を、パックトランピングスタイルで摑み取ろうと言うのが冒険の目的だ。


その秘宝への最短ルートを示したのが以下の宝の地図。

map1_201408261506517d3.jpg

行きはパックラフトを担いでトレッキングし、秘宝を手に入れてからはパックラフトで源流部を下って湖へ。

そして湖を横断して、人が踏み入らない沢でイワナ釣り三昧という計画だ。


しかしである。

彼はパックトランパーである前にスーパーマゾスター。

故によせばいいのに、このような「大回り道」をするというまさかな計画を立ててしまった。

map2_20140826150650711.jpg

直接秘宝に向かえば楽なものを、なぜか「ついでに裏銀座を縦走しちゃったらどうだろう」と考えてしまったのである。

3時間で辿り着ける場所に、あえて「15時間以上」かけて行こうと言うまさかなプランニング。

しかも相手は北アルプス三大急登「ブナ立尾根」を擁するハイパーマゾルート。

下山の竹村新道だって「登りも下りも健脚向け」と言われるハードな道。

そこを彼はパックラフトを背負った「総重量24キロ」のザックを背負って行くと言う。

さすがはスーパーマゾスターの発想力だと言わざるを得ない。


だがこれこそが試練。

これを乗り越えてこそダーマ神殿から正式な転職の許可が得られるはず。


しかしこの旅は辛い事ばかりじゃない。

天下の裏銀座で絶景を堪能し、最高のロケーションで野天風呂に入り、素晴らしい渓相を眺めながら川を下り、〆はイワナを釣りまくってそれを焚き火で焼いて食べるのだ。

まさにこれは男のロマンが凝縮した夢祭り。

恐らく過去最高の旅になる事だろう。



やがて男は駐車場のある七倉ゲート前に到着。

その途端。

急激に雨が降り始め、やがてそれはバケツをひっくり返したかのような「ゲリラ豪雨」に。

IMG_5467.jpg

天気予報ではこの時間帯は曇りだったはずだが...。

男はここで車を降りて小便をするべくトイレに掛け混むが、車からトイレまでの3mで全身余す事なくびしょ濡れになってしまったほどの豪雨。


こうして男は、まだ始まってもいないのにずぶ濡れになってこの場所で仮眠。

実にスーパーマゾスターらしい演出だ。

いよいよこれで、やっと彼の戦いが始まるのである。



男の未来に待ち受けているのは「夢の実現」なのか「マゾの現実」なのか?

待ちに待った大冒険への道のり。


その全貌は次回からお送りして行きます。

場合によってはハンカチが必要になるかもしれません。


「僕も、私もパックトランピングしてみたい」

そう言ってもらえるように。

そして不幸に悩む人々が「ああ、これに比べたら私は楽だ」と笑顔になってもらえるように。


彼は冒険の一歩を踏み出すのであります。


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